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3日が過ぎているということさえ分からずにいた。時間を教える物が無い。ルクスには地獄だった。目を開けても凝らしても何も見えない。どんどん恐怖に蝕まれていく。呟くように「ノクス」と口から洩れる以外に声を出さなくなった。ノクスの声が一日数回聞こえるが、答える力が無い。
永遠とも思えるような時間が過ぎて、微かな音がした。匂いが漂ってくる。
(たべもの)
単語が浮かぶ、飢えが蘇る。急に喉が渇く。けれど牢のそばには誰も来なかった。すぐに音は消え、ただ匂いだけが漂っていた。
それから時間が流れ、飢えは募りもう何も考えられなくなっていた。また音がして、今度は足と小さな灯かりが近づいてきた。急いで格子のそばに行き、冷たい金属に指を絡ませた。
目の前に松明をかざした男が立つ。下に何か置くと腰から何かを手にする。ルクスの格子に掴まる指に熱い痛みが走った。
ピシ――ッ!!
本能的に格子から離れた。
(むち)
牢の奥へ奥へと下がる。火で揺らぐ男の体が恐ろしい。入り口が開いて入ってくる男から離れようと、必死に壁に背中を押しつけた。髪を引き摺られ、口に熱いものが付きつけられる。
「口を開け」
言われた通りに口を開ける。そこに入ってきたモノは……
(ひさしぶり…)
何かがルクスの中で狂っていく。
懸命に舐めて吸った。この後には褒美があるはずだ。それに人の肌は久しぶりだ。こうしていれば誰かがそばにいる。
カラカラの喉に粘りは張り付き、苦しい思いをした。
「これを飲め」
(みず)
強烈な水の匂いがする。水に匂いがあると初めて知った。
こくり。こくり。一口ずつ飲んでいたのがやがて止まらなくなりあっという間に大きなグラスは空になった。指を突っ込み水滴を指で拭っては舐める。
「もっと…もっと…」
「今はそれだけだ」
灯りも足音も消えていく。狂いそうな暗闇にまた一人になる。
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