死神モルス

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  「う、う…」 「…ぁあぅ…」  そんな呻き声は時々漏れる程度だ。そんな力も残っていない。碌に食べても動いてもいないのだ、まともに歩くことも出来なかった。  二人が手を握り合っているのは双子特有の本能からだ。痛みを逃がしたくて互いの爪が相手の手に食い込んでいる。  ドアが開いて誰かが入って来た。ルクスは薄目を開けてやっと女の姿を捉えた。水が欲しかった。 「いう、いう、」  慣れているのか、水の入った浅い器をそばに置いてくれた。起きることも出来ないからそれを抱え込んで犬のように啜る。片方の手にある温度を思い出した。見えないけれど水の匂いを感じてノクスの喘ぐ息がルクスにかかった。指を水に浸してはノクスの口に運ぶ。それを懸命に舐めるノクス。何度も繰り返し、ルクスはとうとう痛む体を必死に動かして水を啜ってノクスに口づけて飲ませた。二人で飲むからあっという間に水が無くなった。  女がそばに座った。水で硬く絞った布が背中と腕に載せられる。思わずため息が出た。 「何回か取り換えて冷やす。今は薬、塗れない。傷が悪くなる。朝になったら薬塗る。食事、体、世話する。私、耳聞こえない。何言っても無駄」  一本調子でそれだけ言うと、熱くはないスープを持ってきた。言葉には優しさが無いが、スプーンで口に流し込んでくれる動作は丁寧だった。スープを飲み終わると口に小さな粒を入れられた。 「飲む。体の熱いのが取れる」 水で飲み込むともう一粒入れられた。 「眠る。ゆっくり」  ずっと布は冷たいものと取り換えられている。動かずに済むお蔭でなんとか燃える肌を耐えた。少しずつ薬が効いてくる。地下で安眠できなかった二人はすぐに眠ってしまった。
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