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朝は女がベッドに座るまで目が覚めなかった。背中も腕も昨日よりは楽だった。スープとパンと果物を食べさせてくれて、女は体を拭いてくれた。
二人の烙印の痕を調べて薬を丁寧に塗る。外気に触れなくなった傷は二人から体の強張りを取ってくれた。
なんとか女と仲良くなろうと試みたがだめだった。
「私、聞こえない。無駄。あんまりするとあの男に言う」
ルクスは女に関わるのを努めて避けた。世話をしてもらうだけマシなのだから。
午後には二人とも座れるようになった。
「ルクス、大丈夫?」
小さな声でノクスが聞く。
「声、大きくても大丈夫だよ。あの人は耳が聞こえないんだから」
「なんであの熱いのをつけられたの? どうなるの?」
「あれは……」
誤魔化しても仕方がない。シルウェステル伯爵領では烙印というものを使わなかったが、他国では奴隷制度が普通で烙印を押されている者をよく見かけた。
「僕にもノクスにも…印がつけられたんだよ」
「印?」
「あの熱かった鉄は…焼きごてって言うんだ。奴隷の体に誰のものか印をつける。逃げてもすぐ見つけられるように」
ノクスの手が自分の肩に伸びていくのを慌てて掴んだ。
「だめ、触っちゃ。痛い間は触らないようにしないと」
「これ…一生取れないの?」
「……そうだよ。僕たちはもう奴隷としての烙印を押されたんだ…もう…どうにもならない」
逃げ出した奴隷の顛末を知っている。むごたらしい処刑だ。煮え湯に付けられたり、息絶えるまでムチで叩かれたり、動物の餌になる。
話を聞いて震えるノクスの体を抱きしめる。
「ルクス……これから僕らはどうなるんだろう。マーカスの船でさせられたようなことをずっとやっていくってこと…?」
「ここがどういう所なのか分からないんだ。あの男に奉仕するのか、誰に奉仕するのかも分からない。今は考えるのをやめよう。明日までは何もしないですむんだから」
食事も何も困ることは無かった。座れるようになってからは贅を尽くした料理が運ばれた。貪るように食べては眠る。女以外は誰も来ない。心が楽になってくる。 地下にいた時のことが少しずつ遠くなり始めた。
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