競り

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「あの馬車だ。お前たちは後ろに乗る」  小舟を漕いできた男の内、一人が馬に乗った。その後ろの座席に船長ともう一人。後ろには荷台がついている。その荷台に乗せられた。荷台にも鎖があり、足に付けられていた鎖を外されそれにしっかりと繋がれた。 足に傷がつくといけないからと、ちゃんと分厚く布を敷いてある。   船長が合図をすると一人がルクスに目隠しをした。 「何をするんだ!」 「港への道を覚えられても困るからな。商品だから疵をつけたくはない。だが目隠しを取ったらノクスの舌を切る。いいな」  ノクスの震える肩を抱き締めた。 「絶対に取らない。だからノクスを怖がらせるのはやめてほしい」 「仰せの通りに。シルウェステル伯爵」 そう答えると船長は高らかに笑った。  馬車が走り出した。 「揺れるね……」 「痛い? ……見えないってこんなに辛いんだね」  目隠しをされて初めて分かった。見えない辛さ。耳だけに頼ること。周りが怖くて動けない。 「ノクスは凄いと思う。僕にはこんなこと無理だよ、耐えられない」 「僕は最初からだから見えないということには慣れているんだよ。ルクスとは違う」 ルクスの目隠しを探して撫でる。 「突然こんなことをされたら怖いよね、きっと」 その細い体を抱き締めてキスをした。 「ごめん。ノクスが耐えてきたこと、初めて知ったよ。僕の膝に横におなり」  体を横にさせて頭を膝に載せた。 「ルクス、君が疲れてしまう」 「僕は強いよ、兄さま。いいからそのまま僕を抱いていて」  ノクスの手がルクスの腰に回った。 「ありがとう、ノクス」 その優しい手にホッとした。   
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