513人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
離さないノクスの手をそっとルクスは引き離した。
「行くよ。兄さま」
見えない目を必死に声に向けた。少しでもそこに影だけでも見たいと。見えないことが悔しい。辛い。悲しい。
(一目……一目だけ、かみさま、かみさまがいるって聞いたよ。お祈りすればいいって。聞いてくださるって。今! 今、一目でいいんだ、ルクスを見たい! お願い!)
ばたん
ドアは閉まった。そのままノクスはベッドに突っ伏した。
「よく離れたな」
いくらか声が和らいでしまうのはどうにもならない。
「客を。取ります、一人でも多く。上がれば一緒にいられるようになるんでしょう?」
「……上がってからモルス様に縋れ。あの方のお気持ち次第だ」
「そんな……」
ルクスは立ち止まった。
「それじゃ、話が違う! 一緒になれると言った、一緒にいられるようになると」
「騒ぐんじゃない! いいか、騒ぐな、二度と。こんなこともモルス様のお耳に入らないようにしないとだめだ。気をつけるんだ、マレ。誰かがモルス様に告げ口したらお前たちは一生会えなくなるぞ。いいか、反抗的な態度も言葉も止めるんだ」
唇を噛む。血が出そうになるのを感じて大男はルクスの顎を掴んだ。口が開く。
「自分が商品だということを忘れるな。客を満足させるんだ。分かったな?」
きつく目を閉じて頷いた。敗北感しかない、自分とノクスの間に大きく立ちはだかるモルスに。
(いつかきっと……殺す。モルス、お前を殺してやる!)
ルクスの目が怒りを含み始める。
最初のコメントを投稿しよう!