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死神モルス
夜中に着いた大きな建物。あっという間に中に連れ込まれたから周りの景色も見えなかった。
そして真っ暗な地下に連れて行かれてルクスは一人、牢に放り込まれた。
「ノクス、ノクス! お願い、一緒にいさせて!」
男は腹に蹴りを入れてきた。
「ここではやることをやらなきゃ何も通らない。今のお前には何を言う権利も無い」
「いや、ルクス、ルクス」
「うるさい、お前はこっちだ」
イヤがるノクスの声が遠くなる。
「ノクスーーっつ!」
ガチャーン! と牢が閉まる音がした。囚われて以来、こんなに離れたのは初めてだ。二人とも声を限りに互いの名前を叫んだ。自分たちしかいないことが分かる。聞こえるのは相手の声だけ。けれど叫ばないと聞こえない距離。とうとう声が枯れ、冷たい床に体を丸めて横たわった。
何も無い。毛布も何も。船ではあった水樽も、下の排泄物を入れる物も。そして、光が無い。
(ノクス……水を探して這いまわってるのか? ここには何も無いよ。手に触れるのは床と壁と格子だけだ……ノクス…)
そのまま3日放置された。我慢など出来るわけもなく、牢の隅に排泄した。身をきれいにする手段も無く、ただの動物であることを思い知らされる。空腹だ。せめて水だけでも欲しい。互いの肌が恋しい。
『お前は暗闇でも困らないだろうな』
ノクスは牢に入れられるときにそう言われたのを思い出す。
(ルクス…ここは暗いの? ルクス、大丈夫? ルクス…)
辱めを受ける以上に辛い、互いの手が届かないことが。水の無いことが。寝起きする場所に排泄することが。空気が淀んでいることが。それでもノクスには暗闇であることが辛いことではない。
(光は? 君のいるところに光はあるの? ルクス、君には光が無くちゃいけない)
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