53話 ナルディスナの想い その2

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53話 ナルディスナの想い その2

魔力が心許なくなってきた。  そろそろ走るのもきついな。  ああ、まだ大丈夫だ。  満身創痍はお互い様だ。  お前もヒダリ殿から受けたダメージが回復しきっていないのだろ。  何せ二回も刀身が砕かれたからな。  そうだな、ヒダリ殿の拳は凄かった。  珍しくお前が興奮していたからな。  何、私もだと。  たしかに、今思い出しても胸が熱くなる。  なに? 厚いというほど胸がないだと。  誰が厚みの話をしている。  そもそも私の胸がないのは種族の特性によるものだ。  妖精種は基本的に背丈も体も小さめなのだ。  厚かろうが薄かろうがたいした問題ではあるまい。  む、たしかに。  ヒダリ殿と一緒にいた女性はみな薄くはなかったな。  いや、だからなんだと言うのだ。  そもそもヒダリ殿がどう思おうと関係ないではないか。  なに、素直になれだと。  なんのことだ?  ふむ、そうだな。  たしかに今ここにヒダリ殿が来てくれたら、それはうしいな。  他の男?  ヒダリ殿以外で我を助けられる存在など思い付かんな。  そうだな、彼ならば本当に伴侶でもいいと思えるぞ。  ふむ、我はヒダリ殿をことのほか気に入っていたということか。  ああ、デルバレバにいけば逢えるかもしれんな。  そう考えると心なしか体が軽くなった気がする。  こういう感覚は悪くないな。  追い付いてきたか。  人が心地よく思考しているときに邪魔立てするとは無粋な連中だ。 「探しましたよ、女王さま」  またあの黒い機体か。 「今度は逃がしませんよ」  さて、どうやって撒くか。 「まだ逃げることを考えているようですが無駄ですよ」  あいつは本物の阿呆だな。  夜の闇の中で一瞬でも我から視線を切るとは。  しかしこの魔力では置いてきた分身もそう持たないな。  阿保のいた場所から爆発音がひびく。  急がねばな。  そろそろ限界だな。  体が動かなくなってきた。 「もう逃がしませんよ!」  お供の2機が魔方陣を展開する。  闇魔法の妨害か。  同じ手を使うわけがなかろう。 「何度も何度も!」  黒い機体の拳がせまる。  甘いわ!  カシュタンテで拳の軌道をそらし、機体の頭部に叩きつける。 「まだそんな力が残っていたか」  頭部機能を潰しきれなかったか。  それでも機能低下は免れまい。  カシュタンテを地面に叩きつけ、土煙をあげる。 「くそ、前が」  こいつが阿呆で助かるわ。  黒い機体は土煙の中でやみくもに暴れている。  最後の力を振り絞り、走り出す。  これ以上はどうにもならんな。  足が……  とうとう魔力が底をついたか。 「とうとう限界のようですね」  囲まれたか。 「あはは、もう一歩も動けませんか」  こいつは本当に隙だらけだな。  少しでも体が動けばなんとかなるのだが。 「ちょこまかちょこまかと、ずいぶんと私の手を煩わせてくれましたね」  黒い機体に殴り付けられる。 「あはは、さすがに頑丈ですね」  さらにもう一撃。 「お仕置きですよ」  突如人影が現れ我を庇う。 「が」  我をかばった人影が殴り飛ばされる。 「カシュタンテ」 「ほう、もう一人ふえましたね」  くそ、体が動かん。  カシュタンテはどうなった? 「この女をお探しですか」  やつがカシュタンテをこちらに放り投げる。 「カシュタンテ」 「ナディ……」 「そちらの女性もなかなかお美しいですね、女王さまと二人私が飼ってあげましょう」  我を飼うか。  どうやらこの阿呆は我が目当てだったようだな。  む、機体から降りただと? 「お美しい、あなたは私の理想とする女性です」  神経質そうな男が我の前に立つ。 「こんな世界に飲み込まれて多少は苦労しましたが、あなたを手に入れられるならどんな苦労も帳消しですね」  我を手にいれるか。  どこまでも阿呆だな、この男は。 「あははは、その反抗的な目いいですね。是非ともその動けない体で抵抗してください」  阿呆はカチャカチャと服を脱ぎ出した。  我を庇ったカシュタンテを蹴り飛ばし我の服に手をかける。  やはりこういうのは嫌なものだな。  助けてくれヒダリ殿…… 「まずは最初の躾ですよ」 「うるせーよ、変態野郎」  我に迫っていた男が視界から消える。 そしてそこには助けてくれと、逢いたいと願った男が立っていた。 「久しぶりだな女王さま」
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