55話 ナルディスナの想い その4

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55話 ナルディスナの想い その4

「ルド、二人の状況は?」 「怪我の方は特に問題ありませんが、なにか他のものから影響を受けているようです」 「女王さま、なにか当てはあるか?」  当てか。  あの阿呆が言っていたことがそうなのだろう。 「毒を盛られたらしいのと、よくわからんが魔力を奪い続ける魔法のようなものに取り付かれた」 「いつぐらいからだ?」 「毒の方は今日の夕食、魔法の方はほんの数時間前だ」 「それだけの時間なら、なんとかなるな」  ヒダリ殿がなにもない空間に手をかざすと、空中に穴が空いた。  その穴の中にヒダリ殿が入っていこうとするとリシャル殿がするすると近づいていく。 「ご主人様がんばってね〜」  どうやら激励の一言をかけにいったらしい。 「女王さま、申し訳ないがこっちに来てくれ。護衛の女性も一緒でかまわない」  そう言ってヒダリ殿が穴の中の入る。  ん?  リシャル殿が近づいてくる。 「女王さまもそちらの女性も頑張って。多分ご主人様は押せば落ちるよ」  む? なんだと? 「俺の能力がもっと高ければ外でもなんとかなるんだが。無理強いはしない、どうする?」  カシュタンテが颯爽と中に入っていく。  カシュタンテめ。  重い体を引きずって負けじと中にはいる。  真っ白な空間だな。  宿の一室くらいの広さといったところか。 「へえ、あの穴の中ってこうなってるんだ」  なぜ、彼女たちまで。 「巴、みんなどうした?」 「んー、後学のためにかな? どんなことするのか気になるしね」  ふむ、治療の見学か。  口ぶりからするとヒダリ殿が治療を行う姿を見たことかないのか? 「女王さま失礼するぞ」  そう言ってヒダリ殿が、こちらをじっと見つめてくる。  治療の為とわかっていても、そんな強い眼差しをむけられると…… 「申し訳ない、少しだけ触れさせてもらう」  我の腹部に手を軽く当てる。 「女王さま、治療に痛みは無いと思う。ただ、このまま触れた状態で行うことになるが問題ないか?」  問題などないな。  というかヒダリ殿、戦闘でなければ女性にはかなり気を使うようだ。  我を女性扱いか。  ふむ、悪くない。 「問題ない、お願いする」 「わかった」  我に触れたヒダリ殿の手を通して我の腹部に魔力が集まる。  ???  どういうことだ?  なぜヒダリ殿が魔法を扱っている。  いや、だが魔方陣が展開していない。  どういうことだ、これは魔法ではないのか?  我の腹部に集まる魔力がさらに濃密になっていく。  しばらくその状態が続きヒダリ殿の額にも汗が見える。 「ふう」  ヒダリ殿がひと一息つくと、集まっていた魔力が霧散した。 「どこか調子の悪いところはあるか?」  む、体が楽になった。  もう終わったのか?  魔力が減る感覚もなくなった。  魔力も回復し始めている。 「大丈夫だ、特に問題はない」  我に問題はない、だが今はヒダリ殿の行動が問題だ。  カシュタンテや凶壁はもちろん、ヒダリ殿の妻たちも驚いている。 「ヒダリ殿、もしかして今のは魔法なのでは?」 「んー、魔法っちゃ魔法だな」 「魔法だな、ではない! 男性が魔法を使うという事実がどれだけのことかわかっているのか」 「まあ、色々あるんだよ」 「色々って」 「その辺は秘密ってことで」  たしかにスキルや魔法について、多くの情報を隠すことは咎められん。  我らとて手持ちのスキルや魔法を、事細かに他人に開示などせぬしな。  しかし、それよりもだヒダリ殿のあの表情が不味い。  今まであんなに凛々しく精悍な顔つきを見せておきながら、急に困った子どものような、なんとも言えない表情を見せる。  なんだろうな急にヒダリ殿を抱き締めたくなってきたぞ。  まずいな。  カシュタンテの目がおかしい。 「護衛さん大丈夫か?」 「カシュタンテとお呼びください」 「カシュタンテ? もしかして女王さまの持っていた剣か?」  カシュタンテが無言で頷く。  そしてそのままヒダリ殿の頭に手をまわし、顔を自分の胸に埋めた。 「おぶ」  カシュタンテ、なにを! 「ああ、なんと愛くるしいお顔」  ヒダリ殿が、なんとかカシュタンテの胸から顔をあげる。  カシュタンテがその顔の両頬を抑え、強引に唇を奪う。  何をしている!  む、凶壁?  カシュタンテから解放されたヒダリ殿の唇を今度は凶壁が奪う。  ???  見るとヒダリ殿の妻たちもそれぞれにヒダリ殿に絡み付いていく。  凶壁とカシュタンテがこちらを向いて挑発するかのように我に手招きをする。  ふん、望むところだ。  我とて思うところは多々あるのだ。  ヒダリ殿の首に腕を回し、強引に唇を奪う。  いくぞ!ヒダリ殿!
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