58話 とある使者の見た悪夢

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58話 とある使者の見た悪夢

「元女王とカシュタンテに関しては、私どもでは手の出せない状況ですので、当事者と直接お話していただけませんでしょうか?」  引き延ばしと言うことでしょうかね?  無駄なことを。  渡しても渡さなくてもあなた方に待つ結果は同じなのですけどね。 「当事者の元にご案内いたします」  デルバレバ市長にとある宿の前まで案内されてきました。  中に入ると一人の男性と二人の女性。  銀髪の背が低い女性が元女王なのでしょう。  そしてこの男性が交渉の相手のようです。  黒髪、黒目の男性ですか。  もしかすると地球出身の方なのかもしれませんね。  まあ、同郷だからといって何が変わる訳でもないのですけどね。 「早速ですが、反逆者であるナルディスナ元女王と闇剛刃(あんごうじん)カシュタンテの即時引き渡しを要求します」 「お断りいたします」  即答ですか。 「私は妻たちと離れるつもりはありませんので、どうぞお引き取りください」  愛に生きるとでも言うつもりなのでしょうか?  地球では持ち得なかった力を得て、気が大きくなっているのでしょうね。 「それがどういう意味か、あなたはわかっているのですか? カシュタンテ王国を敵にまわすということになりますよ」  実際にはカシュタンテ以上の戦力ですけれどね。 「敵にまわすも、まわさないも無いだろ。一度ボコボコにされて負けた国が何言ってんだ?」  どうやらこの男性が城で騒ぎを起こしたという人物のようですね。 「そこの元女王がいた時と同じと思わない方がいいですよ」  当時の事は知りませんが、帝国を中心とした周辺国の連合軍ですからね。  この方が暴れたときの戦力の数倍? 数十倍規模でしょうか。 「お前、交渉にきたのか? それとも情報を洩らしに来たのか?」 「なにを言っているのですか?」 「わからんならいいさ」  この余裕の態度、苛つきますね。  自分の実力を見誤っている勘違い野郎のくせに。  まあいいでしょう。  皇帝陛下はあの銀髪の女と先程の市長を御求めのようですし、この勘違い野郎の目の前で奪って、街ごと蹂躙してやりましょう。 「では交渉決裂ということで。ああ、明日の夜明けまでは猶予を差し上げますので」 「なあ、確認なんだが。俺はガンドラル村って所の領主なんだが、他国の領主に向かって妻を差し出せってのは、喧嘩を売ってるってことでいいんだよな?」  いうに事欠いて領主とはね。  しかもガンドラル村って。  それが本当だったとして、どこかの村長に何ができるというの。 「ガンドラルという村がどこかは知りませんが、どうとらえていただいても結構です」 「それはおまえらの総意なんだな」 「はい」 「わかった、その喧嘩買わせてもらうよ」  はっ、とんだ勘違い野郎ですね。  その勘違いも、あとわずかの間だけでしょうけどね。 「首尾はどうだ?」  自陣に戻った直後に陛下から声をかけられた。 「どうやら交渉決裂のようです、陛下」 「ふむ、ならば己らの置かれた状況を見せつけてやるまでだな」 「わかりました。各国の将に通達、全軍デルバレバを半包囲しながら前進せよ!」  あの勘違い野郎は、この軍勢をみたらどうするのでしょうね。  手のひらを返して謝罪でもするのでしょうか。 「通達! デルバレバから人がでてきたようです」  は、軍勢に驚いて妻を差し出しにきましたか。 「人数は三人、元女王、デルバレバ市長とあと一人女性のようです」  あの男がいない?  妻に全てを押し付けて逃走でもしたのかしらね。  滑稽ね。  あの元女王がどんな顔をしてるか、見てやりましょう。  何故かしら、嬉々としてこちらにむかってきているような?  なっ!  赤い髪の女の後ろに複数の巨大な魔方陣!?  複数の赤い線が空に走る。  瞬間、6隻の戦艦が爆発。  その周囲にいた魔動機兵も複数巻き込まれている。  嘘でしょ!?  赤い髪の女はすでに次の魔方陣を展開している。  まずい!  再度空に赤い線が走る。  今度は3隻の空母と2隻の戦艦が轟沈する。 「空母及び戦艦には、至急あの赤髪の射程外まで後退するように通達!」  地上部隊は?  銀髪の元女王が地上の前線部隊に巨大な大剣を叩きつけ、凪ぎ払う。  あり得ない。  たったの一撃で前線の一部が崩壊しかかっている。  さらに地上の兵を吹き飛ばしながら、元女王を護るように巨大な石壁が現れる。  そしてその壁がそのまま、地上の兵力の上に倒れていく。  さらには空中にいる魔動機兵に向けて、石壁が飛んでいく。  壁が襲ってくる?  空に赤い線が走る度に航空戦力が撃墜され、地上では巨大な剣と巨大な壁に部隊が蹂躙されていく。  あり得ない、相手はたったの三人よ。  たったの三人にどれだけの被害を被っているの? 「大丈夫なのか?」 「ご安心ください、陛下。いまやられているのは部隊のほんの一部。伝令をだしましたので、後方に控える大部隊が奴等を蹂躙いたします」 「そうか、ならばよい。ただし元女王と市長だけは殺すなよ」 「かしこまりました」  殺しはしませんよ、殺しはね。 「伝令!後方部隊が到着しました」 「伝令!前線にいた三人の女性が下がる模様です」  さすがにあれだけの力を使えば消耗も激しいはず。  犠牲は大きかったですが、これでこちらがわの勝利は決まりましたね。  先程の戦力を遥かに超える大部隊に、蹂躙されてください。 「伝令、三人と入れ替わりで一人の男が出てきた模様」  今さらあの男が出てくる。  なんのために。 「おーい」  風魔法による拡声か? 「領主の妻を寄越せはさすがにやり過ぎだろ。売られた喧嘩、買わせてもらいますよ」
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