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「こう見ると、なんとなく昔の咲夜に戻った感じもするわ。色気は特盛で足し算された気がするけど」
にんまりと笑った逸美に、未希子が「あ」と声を上げる。
「もしかしてミスコン前がこんな感じだった?」
「まさか。あの頃は、咲夜の内面を知る身内の贔屓目みたいなのがあったけど、今客観的に女子大生として思い出すと、女としてはギリギリ及第点ってとこだったわね」
そこで言葉を切った逸美の手によって、細長いグラスの中でカットされたレモンがクルクルとストローで回される。
「化粧は適当だったし、髪はいっつもひっつめてて、バイト中心だったからスカートは滅多に着ないし。大学の先輩で、美をとことん追求してるヒロって人がいたんだけど、その人が随分と吠えてたわ。素材が泣いてる~って」
それを見兼ねて、比呂ちゃん先輩が私の首根っこを掴まえたのがミスコン挑戦の始まりだった。
「でも、今の咲夜ならヒロも認めてくれるんじゃないかしら。なんとなく、その室瀬さんの"馴らし"が入ってる気はするけど、絶妙に"咲夜っぽい"感じが削がれてなくて、普通に綺麗だし可愛いし」
「なるほど。彼奴による馴らしとは、言い得て妙。はっきり言って、咲夜への接し方が異常なほど真剣だし、周りなんか目に入ってないっていうか、わざと目に入れさせてるっていうか」
「確かにそうですよねぇ」
「ぅ…すみません…」
話の中で思わず謝罪が口を突いて出てしまう。
会社では出来るだけ控え目にってお願いしてるんだけど、気が付いたらいつも咲夜のペースになってて、結局は受け入れてしまう自分がいる。
「彼氏、ちょっと浮かれすぎなんじゃない? って思わせといて、でも結構冷静に咲夜も周りも操ってんのよね、あのイケメン。あんな態度で恋人を大事にする男に、女はなかなか迂闊には手を出せないよ? 咲夜にとって代われるって考える愚か者は笑い者って、リスクの方が高すぎるし」
「わかりますぅ。室瀬さんってぇ、そういうのも含めてぇ、日々調教って陰湿さがチラチラ見え隠れしてますよねぇ」
「ああ、やっぱりそういう感じの男なのね。――――――まあ、それにすっかり馴らされてる咲夜も流石だわ。あの元カレに五年も流されただけはある」
それはちょっと、
「言い過ぎだと思う、逸美」
「そうね。わかったわよ。あいつとも、確かに愛はあった。でもその五年の間に、別のところにも愛があった。――――――ま、咲夜がそれに出会えたし、始まりはどうあれ、この際は全部良しとするわ」
微笑む逸美は、本当に嬉しそうに私を見つめてきて、
「その五年の間に悶えた室瀬さんスチル、それを傍で支えたのはもしかして宮池資?」
その隣で、未希子がまた変なオーラを醸し出し始める。
「やだ、あのイケメン二人が…なんて想像するだけで脳内が溶ける、蕩ける…ッ! BLって美しさがあればこそなのよね、私。それ以外は興味ないんだけど、あの二人なら基準を軽く超えてるわ! ブラボーよ!」
すると、藤代さんがゆっくりと首を振った。
「残念ながらぁ、あの二人にはその期待に沿う事実はないんですよねぇ」
「え、確認済み? え? そうなの? 嘘なんじゃないの? 実はあったのに無いって言ってるだけなんじゃないの?」
「んんん~、聞いたのは資さんなんですけどぉ、どんなに惚れた女でもお尻だけは絶対に明け渡さないってくらい、死守すべき場所だって言ってましたからぁ」
「…え、オレはタチだ! …って事?」
「先輩…なんていうか、理解力が願望に偏り過ぎててびっくりなんですけどぉ、――――――でもそれも有りな気もしてきました。今度はその方面で攻めて見ますね」
「頼んだ!」
何て言うか…、
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