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「思い返してみれば、制服だった高校の時の方が地味にもててたわね。咲夜は」
本当に何て言うか、
「え、ちょっと逸美!?」
どうしよう、この女子トークの場面、会話が進めば進むほどに、
「そういうのは話さなくていいから!」
凄く居たたまれない。
「何となく分かる気がしますぅ。西脇さんってぇ、遠くから見ると大人しそうで清楚に見えて、でも近づいて話すと明るくて気さくで、悪い大人に高値で買われちゃいそうな女子高生って感じですよねぇ。あたしはぁ、一緒にお代官様ごっこしたいですぅ。西脇さんをこうくるくるくるっと。今度三人でどうですかぁ? 室瀬さんと、あたしと、三人でぇ」
「ちょっ、藤代さん?」
どうして会話がいっつもそっち方面へと転がって行くのか。
未希子とは違った危うさがある藤代さんに、私は動揺させられてばかりだ。
「わかる! わかるわよ藤代さん! 自分が男に生まれてたらって、この悔しさ、咲夜に出会って何度思ったか」
「やだ金井先ぱぁい、女同士だってひぃひぃ言わせる術は幾らでもあるんですよぉ? 良かったらご指南差し上げましょうかぁ? 有料ですけどぉ」
「それって実践!?」
「逸美!」
前のめり気味に反応した逸美に、思わず声が上ずってしまう。
「いいじゃない、咲夜。女をひぃひぃ言わせるテクニック、私もちょっと興味あるわぁ」
「未希子まで…」
「でも今はまだ興味は半々かな。もうちょっと私が枯れて、必要なのは男じゃないって時が来たら言い値で買ってあげる」
「お待ちしてまぁす」
「逸美…」
ニンマリと笑った逸美と、目を細めて笑う藤代さんとのこのやり取りの、一体どこまでが本音でどこまでが遊びなのか、私にはさっぱり線引きが出来ない。
「それにしても、サクヤ・ロランディ。こうして話を聞けば聞く程、私が聞いてた印象と違い過ぎるわ」
頬杖をついて眉間を狭めた逸美に、その隣の未希子が首を傾げる。
「大学の時は今みたいに一途な感じじゃなくて、女にだらしないゲス野郎だったとか?」
「違う違う」
逸美は小さく肩を上げた。
「目立つ存在だったけど、女を食い散らかすような"下衆野郎"じゃなかったみたいよ。私が言ってるのはその見た目、容姿!」
容姿。
その言葉に、ドキリと胸が弾けてしまった。
「同じ会社の室瀬咲夜って人は黒髪なんでしょ? でもサクヤ・ロランディと同一人物だって事は判明してる。となるとね、やっぱりおかしいのよね。私が知ってるサクヤ・ロランディって――――――」
あの日――――――、
『お前の事がずっと好きだったんだ、咲夜。日本を離れている間も、何かにつけ思い出すのはお前の事だった』
玄関に入った途端、情熱的に告げられたその言葉と同時に壁に押し付けられて、
『……ゃ、咲、夜…』
咲夜の僅かに開かれた唇が、私の頬に、額に、まぶたに、鼻先に、そして唇に、何度も何度も音を立てて落とされて、
『咲夜…』
数センチ先に見つめていた黒い眼差しが少し細くなり、
『咲夜』
しっかりと重ねられた二人の唇、強く抱えられた頭と、それに比例するうっとりとするほどに優しく伝わって来る肩から腰までを撫でられる感覚。
『ん…』
広い背中に回した手でしっかりとシャツを掴んでいないとどこかに倒れ込んでしまいそうな程に深くて長い長いキスは、
『…ぁ』
合間の呼吸が本当に息を繋ぐものだと実感できる程に、私の全身から何かを奪っていって、
『…咲夜?』
そして――――――、
ギュッときつく抱き締められた後、耳元で囁かれたのは、
『見た目が変わっても、オレはオレだ。――――――そうだろ?』
『…咲夜…?』
どうして、そんなに切羽詰まったような声になるのか、疑問に思った瞬間には、咲夜からの温もりは正面に離れていて、
『――――――え?』
どうして、私を見る表情がそんなにも不安に駆られているのか、私にとって、究極として行きつく咲夜の秘密はそこなのだけど、
『これが、咲夜の二つ目の秘密…?』
まるで操られるように、私の手が持ち上がって、人差し指が咲夜の左目の縁に辿り着く。
『…凄い…』
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