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振り返った私の視界に入ってきたのは、淡いオレンジを光沢として被せたような綺麗な金髪を持った外国人――――――、
ではなく、
「…咲夜…?」
そう、私が知っている室瀬咲夜とは全く違う容姿へと変貌していた、当の本人。
「って言うか、アレがサクヤ・ロランディだわ、咲夜」
半ば茫然と呟いた逸美の声。
「青眼に金髪! センターキャラ!」
一気に興奮に火が点いたようで、ちょうどカップの上あたりで空気机を叩き出した未希子。
「…わぁ…、なんかもう完全に、西脇さん捕獲を目的とした攻撃態勢ですねぇ」
そして最後は、棒読みの藤代さんのセリフがぼんやりと頭に入って来て、
その後は、何て言うか、ほとんど思考が飛ばされた状態。
「咲夜、良かった、すれ違わなくて」
「…え、っと…」
私を目指して一直線にテーブルの合間を縫ってきた咲夜は、無数の視線に注目されているの何て全く意に介していない。
「ど、どうしたの?」
正直に言えば、この姿で普通に日本語を話している事自体に違和感が拭えなかった。
もちろん、咲夜を知っている時点でそんな考えは払しょくするべきなのだろうけれど、漆黒の髪に親しんでいた私からすれば、これは全く別人の域だ。
確かにこの見た目なら、大学時代から逸美が知っていたサクヤ・ロランディに対する王子様という評価が決して誇大された風評では無かったと解る。
元々美形だけれど、それに加えてこのキラキラしい煌びやかさは反則だ。
ふと、初めて咲夜の従妹であるジュリさんを見た時の感覚を思い出した。
彼女をどこかで見た事があるような顔だと思ったのは、TVとか雑誌とか、そう言う事じゃなくて、髪色が違い過ぎて結びつかなかったけれど、二人の顔の造りがそっくりだったから。
この日本人離れした美しい顔立ちと存在感は、間違いなく生粋のイタリア人だという母方の血筋だと思う。
「派手ですねぇ…」
「…」
少なくとも、私の心の内をすっかりまとめてくれた藤代さんのその発言に、当の本人である咲夜を前にして表立って同意は示せないけれど、口だけの否定も出来ない事がなんだかもどかしくて居心地悪い。
「でもぉ、どんなに溺れてもぉ、絶対に自分を失くしちゃダメですよぉ? 西脇さん。でないとぉ、全部都合の好いようにもってかれちゃいますからぁ」
「え…?」
思わず藤代さんへと顔を向ければ、何かしら腹に秘めたような乾いた笑顔が私を迎える。
「浮かれた優しい王子様ほど、質の悪い暴君だよねぇって、そう思うんでぇ」
「えっと…それはどういう…」
微かに、好奇心よりも恐怖心の方が勝った私の疑問は、
「おい」
咲夜の努めるように出した低い声によって遮られた。
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