SECRET 02

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 まるで共感を示すように頷く未希子は、数カ月に一度、それもたった数日を過ごす頻度でしか会えない彼氏の為にどうして地味な格好で生活する必要があるのかと、ずっと私に疑問を呈してくれていた。  それでも、彼は私が初めて好きになった人だし、初めての彼氏で、在学中に付き合った二年間はとても楽しかったし。  遠距離になってからも、ちゃんとお互いを大切にし合えている関係だって信じていたから、それくらいで彼が安心出来るのならと、そんな束縛に特に大きな不満は感じていなくて――――――。  だからこそ、別れた後、その寂しさを乗り越えるのに苦しんだ三か月。  お正月に、彼が恋人を連れて実家に帰ったと聞いた日は、声が枯れるまで大泣きして、でも仕事は休めないし、頑張って乗り越えようって足掻いても、彼一人としか経験のない私は、どんな些細な事も"思い出せるのは彼との事"だけ。  楽しい時間を思い返す程、大学時代の誠実だった彼に会うのが嫌だった。  夜に求めてしまう温もりが、彼との行為しか想像できないのが嫌だった。  夢で望んでしまう情熱が、彼以外に想像できないのがとにかく嫌だった。  誰かに上書きしてかき消して欲しい。  せめて、彼以外を思い出せる経験が欲しい。  その望みを叶えてくれたのが、私の二人目の人になってくれたサクさんで、  きっとサクさんがその道のプロだからなのかも知れないけれど、あの夜の経験が、過去に俯ていた私の顔を上げさせてくれたのは確かだ。  これを糧に、いつか出会う、別の誰かとの運命を信じられる。  そう前向きに歩き出せただけで、払った金額以上に価値があったと、私は他人なら愚かだと哂うかもしれない冒険を、心から納得して受け止めている。  「でも私は、敢えての逆をしたいわ」  ぼんやりと考えに浸っていた私を他所に、未希子はニヤニヤと話し続けていた。  「ここら辺にいる奴らに、大声で叫んで見せつけてやりたい。咲夜(さや)可愛さ(秘密)を」  「…未希子」  思わず困ってしまった私を他所に、クルクルと、フォークを回しながら未希子の言葉は楽しそうに続く。  「こんなに地味な格好で、人目を避けて静かに生活してきた西脇咲夜(さや)が、実は母校の大学で準ミスになったくらいの美少女だなんて、ここにいるだーれも知らないとか、ウズウズしちゃうわ」
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