SECRET 04

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『小悪魔っぽくはあるけれど、男好きにも見えないのよね。不思議』  そう漏らしていたのは小谷さんだったか。  皆藤さんが何も語らないのはプライベートとして包んで終息したって事でいいのではないか、羽柴さんのその言葉を締めに、以降は誰も話題にしなかったからもうすっかりと忘れていた。  「…うちの人事部は、優秀…だから、ね」  わが社の人事部は、鋼鉄と呼ばれる程に口が固い。  特に社員情報を扱う職員は厳選され教育され、その育成プログラムは他社が講習会の実施を依頼してくる程に有名だ。  別の方向に深堀する事にならないように、何とか声をあげた事を誤魔化そうとしたけれど、藤代さんがクスリと笑ったのを受けて、私はそれを諦めた。  二人だけで話したのは初めてだけど、自意識過剰なくらい、自分に対して人が何を考えているのか、無駄に深読みした時期があったから何となくわかる。  きっと藤代さんのプライベートな一面は、この見掛けに反するところに位置づいているのかも知れない。  「あ、すごい。噂をすれば、ですよ」  「え?」  動いた彼女の視線を追ってみれば、そこにはシステムサポートのメンバーが四人いて、  「アレが(たくみ)さんです。キラキラしてますよねぇ」  トレイを持って一団を率いて歩いているのが、その宮池(たくみ)らしい。  「確かに…」  額を見せてわけた栗色の前髪はウェービーな感じで、顔立ちも正統派。  テクニカル系の人は線が細い印象だったけれど、背の高さに加えて、ちゃんと鍛えてますって感じの身体にベージュの春物のジャケットがとても似合っている。  『わかり易いイケメン』  皆藤さんがそう例えた理由が分かった。  確かに、その隣に立つサクさんと違って、宮池さんは一目見て直ぐに特別枠に分類できる程の格好の良い人だ。  そのイケメン度は余りにも周りから抜きんでていて、  …サクさん――――――つまり室瀬さんは、前髪や眼鏡で顔を隠すよりももっと効果的な手段として、この宮池さんの威光を利用している。  キラキラ眩しい人が周りにいれば、大抵は影となって埋もれるだろうから、最初から地味っぽく装っている室瀬さんにとって、その効果は絶大だと思う。  「室瀬さんもぉ、よく見れば綺麗な顔立ちに入るかなとは思うんですけどぉ、ああいう訳ありな感じは好みじゃないんでぇ」  「…訳あり?」  凄い。  本当の顔を知っている私でも気づかないくらいの隠し方なのに、藤代さんは気づいていたんだ。  「あの人ぉ、イタリアのブランドのシャツ着てるんですよねぇ。日本には店舗無くて、直接行くかお取り寄せかのシャツ。しかも一着二万くらいのシャツですよぉ? それを色違いで持ってるんで、もしかしてお金持ちなのかなぁって、それが室瀬さんを観察する切っ掛けになったんですけどぉ」  「そのシャツって、ここに刺繍が入ってる…?」  襟の部分を指して聞くと、藤代さんは少し驚いたように目を瞬かせた後、肯定した。  「そうですぅ。余程の服好きじゃないと知らないブランドなので、気付いている人はいないと思いますけどぉ」  昨日、室瀬さんとすれ違いざまに目についた、緑のシャツの襟にとられた刺繍。  あれは、あの夜(・・・)にサクさんが着ていたシャツと色違いの同じ物だった。
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