「サクさん…」
傍に戻ってきたサクさんが、指で私の顎を掴んで持ち上げた。
あまりの至近距離に、息が止まりそうになる。
「――――――彼氏、いいの?」
「…酷い…」
すべて知っている癖に、それを尋ねるのはわざとなのか。
「悪い」
泣きそうになった私とは反比例。
短く謝罪したサクさんの唇は笑みを象り、くっきりとした二重の目が、妖しい色香と共に細められた。
「なら遠慮なく、サヤを啼かせてもいいわけだ」
「サクさ…」
私の唇を、サクさんの指先がゆっくりと撫でる。
「お前、良い匂いがする」
「シャワー浴びてきたので…」
「ふうん?」
始めは髪にそっと触れるように、次第に髪の毛の中へ。
サクさんの唇が、探るようにして何度もキスを落としてくる。
頭皮、耳の裏、そして首筋…。
サクさんのキスが点になって、それを標に、擽ったさが背筋から頭まで線となって駆け上ってきた。
「ぁ」
恥ずかしいくらいに肩が跳ねて、思わず涙が溢れてくる。
「感じ易いな。――――――楽しみだ」
そんな言葉が齎された次の瞬間には、弧を描いたサクさんの唇と、閉じる事を忘れて乾燥してしまった私の唇は、隙間なくしっかりと重なっていた。
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