SECRET 01
都会の雑踏には、罪悪を誤魔化すにはちょうどいい騒音が蔓延っている。
特に今、目の前にある深い濃さを持つ夕暮れの景色は、薄汚れそうになっている私の何もかもを燃してしまいそうな程に強いパワーを持っていて、気を緩めたらうっかりと呑み込まれてしまいそうだ。
「いい、のかな…」
呟いた途端、声と一緒に勇気が霧散してしまったのか、急に腰が引けてきて全身が震えた。
湧き出たその慄きに抗えずに、気が付けば片足が後ろに下がってしまっていて、
恐る恐る周りを見渡せば、私が一人佇むショッピングモールの広場には、眩しいほど健全に見えるカップルが多く行き交っていた。
「…どうしよう」
今なら、まだ引き返せる?
コサージュが付いた小さめのショルダーバッグを、無意識の内に強く両腕で抱き締めながら、考え付いたのは決心する前のスタート地点に出たもう一つの答え。
「やっぱり私…」
こんな事はいけない。
しちゃいけない。
帰ろう。
そんな決意が胸を掠めた時だ。
「お待たせ、サヤ」
男の声で名を呼ばれ、進もうとしていた時間も、打ちかけていた鼓動も、何もかもが奪われたように世界が止まる。
「悪かったな。少し待たせたか?」
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