SECRET 04

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 目の覚めるような赤のジャケットを脱いで、その下から上品な光沢のある黒のシャツが出てきた時、その辺りで量販されている品ではないような気がして、無意識にロゴを求めたからこそ気が付いた印。  自分を高く売るホストは、きっと身を包むものにも拘っている筈で、サクさんに良く似合っていたあのシャツはどこのブランドだろうと、あの後、一度だけ――――――とは言ってもかなり長時間検索をかけて徒労に終わった事は記憶に新しい。  国内に取り扱い店舗がないのなら、辿り着けなくて当然だ。  「意外ですぅ。西脇さん、ああいう室瀬さんみたいなのが好みですかぁ?」  「え?」  「だって今、――――――あたしが知る中で、ダントツに興味を以って耳を傾けているような気がします、西脇さん」  「藤代さ…」  語尾が、伸びてない。  そう気づいて、正面から真っすぐに、藤代さんの視線を受け止めた時だ。  「あれぇ、藤代さんじゃん。今昼休み?」  そんな言葉を私達の間に割り入れたのは、顔を上げて見れば宮池(たくみ)で、  「やだぁ、(たくみ)さんじゃないですかぁ。今日は十三時からでーす」  その直ぐ後ろに立っているのは、室瀬さん。  「そうなんだ。あ、カツ丼美味しそうじゃーん。ねぇ、ここ一緒していい?」  軽い調子の宮池さんのお伺いに、嘘、と私の内心は強張った。  そして、私のこの反応に気付かれたなら、室瀬さんが前髪の向こうでほくそ笑んでいるかも知れないと、何だか悔しい気持ちになる。  「えぇっとぉ、実は今、女の子同士のお話し中でぇ」  ――――――え?  あんなに慕っているように見えた宮池さんからの申し出だから絶対に承諾するだろうと思っていた藤代さんから出てきたのは、想定外のお断り文句で、私は思わず目を見開いてしまう。  「あ~、女の子同士の内緒話か。なら無理にはお邪魔出来ないかなぁ」  特に気を悪くした風でもなく、さらりと応えた宮池さんはさすが女子の扱いに慣れているというべきか。  「さすが(たくみ)さん。見た目だけじゃなくて中身もイケメンですねぇ」  「でしょ? 君が早くこの魅力に陥落してくれるといいんだけどなぁ」  「やだぁ、そんな事口癖みたいに言うからぁ、会社中の女の子が本気にして騒いじゃうんですよぉ」  「女の子は、そういう純粋なところが可愛いよねぇ」  「もう、(たくみ)さんったらぁ」  「あはは。それじゃあ、西脇さんも、良かったらまた今度ね」  手を振って、トレイを片手に奥へと進んでいくその姿は、――――――個人的に、話し方は軽すぎる気がするけれど、見た目を裏切らない颯爽としたイケメン振りだ。  食堂にぽつぽつと点在している女子達の視線をすっかり一つにかき集めてしまっている。  他の二人はそんな事は慣れっこなのか、この雰囲気をものともせずにさっさと次の席を目指して歩きだしていて、その後ろをついていく室瀬さんの目線だけはどうしてか私に向けられているような気がして、耳の後ろがじんじんと痒くなった。  息をかけられた瞬間や、首を這った舌の感触を思い出す。
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