第二章

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「こっちデータ飛ばして。」 「今飛ばしてるっつーの。そっちの資料。」 「あ、これ?はい。こっちのは内容変更ある。」 「わかった。」 1-2週間もすれば全く普段通りすぎて、あれは夢だったのかなと思うくらいだ。 あれから特別仲良くなったこともなく、距離も変わらない。 どうしたもんかな…。 「ねぇ、香椎となんかあった?」 昼休み、みんなが先に食堂に行った途端に水瀬さんが身を乗り出して聞いてきた。 一瞬ドキッとしたが 「…なんかって何ですか。」 探るような眼で俺を見る。 同じαなんだけどこの人苦手なんだよな…。何考えてるか分からない時がある。 「なんだろね?折原ってさぁ…香椎のこと好きなの?」 「………は?何スかそれ。」 「いや?最近よく気にしてるなって思って。 香椎もなんか前に比べてトゲトゲしてないっていうか。 二人の関係が変わったのかなって思っただけ。違うならいいんだ。」 にっこり笑うこの人の心情は読み取れない。 「水瀬さんて香椎のことすげぇ気に入ってますよね。」 「そりゃぁね。強がって臆病なトコ隠したり、ケンカ腰だけど実は仲間思いだったり。人に頼るのが下手で、陰ながら人一倍頑張ってるのも知ってる。香椎が付き合いたいって言って来たら即OKだよ俺。」 この会社の重役はほとんどαだ。Ω自体も一般の企業に比べて少ない。 入社試験自体も難しいというのもあるし、入ってからも並みの努力じゃ残れない筈だ。アイツは知らないところで努力しているのは分かっていたけど。 そしてこの人のこの真剣な眼は俺に向けての牽制なんだろうか。 「…意味、わかるよね?」 「……。」 だからって俺にどうしろと? 「じゃ、話は終わり。飯いこーぜ。」 いつもの水瀬さんに戻って香椎の話が出ることはなかった。 「なぁ最近なんかあっただろ?」 桐山がうれしそうな顔で聞いてくる。 しかも確信口調だし。 「なんも。」 自分の中で特に変わった意識はないんだけどな。 土生も興味深々に見ている。が、その横の香椎は興味なさげに蕎麦をすすっていた。 「嘘つけ。絶対なんかあったよな?だって一か月近くも誰とも遊んでないじゃん。珍しーってかそんだけ空くの初めてじゃね? 本命でもできたとか?」 ウキウキしながら聞いているが…こいつチェックしすぎだろ。 「別にー。今仕事忙しいし、なんつーか…面倒。」 なんていうんだろうな…。 あの時以上に興奮することはないような気がして…めんどくさいとか乗り気になれないというか。 「面倒って、マジでどうした?あんないろんな女に声かけてた奴がさ。不能になったとか?」 「桐山、なんか折原にも事情があるんだよ。」 土生ナイスフォロー。 「でもさー変だとおもわねぇ?土生もさ。」
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