第二章

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「まぁ、良いことじゃないの。誰かれ構わず誘わなくなってさ。ね、香椎。」 「ッ…ごほッ!」 自分に話を振られると思ってなかったのか咽ているし。 「…っんで俺に聞く訳?…ごほッ…まぁ、いいんじゃない。」 まだ少し苦しいのか涙目になりながらそっけなく言う。 あれ?なんかいつもの毒舌がない。 「ふーぅん…。」 桐山が俺と香椎を交互に見る。 「…違ってたらごめん。二人って…なんかあった?」 「………。」 香椎はうつむいてしまって何も言わない。 は?否定すればいいのに。 もしかして…自分が発情したせいで…とかって思ってんのかな。 俺に謝ってたくらいだし。 でも、こいつだって知られたくない筈だ…会社で発情してしかも俺にヤられたなんて。 「なんもねーよ。変な勘ぐりしてんじゃねーよ。」 それでその話はなんとか乗り切ったけど。 食べ終わって、デスクに戻ろうとしている時に、香椎が声をかけてきた。 人目を避けたいのか使われていない会議室まで連れてこられた。 「さっきは悪い。その…嘘つかせて。バレたら別に言ってくれて構わないから。」 だからさーなんでそんな可愛くない言い方するんだろうなー。 うつむいている香椎を見ると、耳が少し赤い。 顔を覗き込むと、 不安そうな、少しうるんだ眼が揺れている。 「………あー。その、まぁあれは俺も悪かったから。」 なんなんだ、こいつ。 なんでこんな顔してんの? 口調と表情が反対だろ…。 ・・・不覚にもちょっとかわいいと思ってしまったのはきっと気の迷いだ。 「あれ、お二人さーん、どしたの?」 顔を覗かせたのは水瀬さんだった。 「あ、いえ、ちょっと。仕事の話を。」 ぱっと顔を上げたけど、まだ少し顔が赤い。 「顔、赤いよ?熱でもある?」 そういって香椎の額に手を当てる。 「だ、大丈夫です。」 俺はなんとなく居心地が悪い感じがして早々に立ち去った。 別にいいじゃん。あの二人お似合いだし。 そう思いながら、モヤモヤした気持ちは消えなかった。 相変わらず、仕事でも二人が目に入るとモヤモヤする。 外回りの時でさえもモヤモヤは消えない。 「…溜まってんのかな。」 香椎とした行為は今まで一番良かったのは間違いない。 あんなにぶっ飛んだことないし。 体の相性が良かったんだろう。 こんな精神状態だったら絶対いずれ仕事に支障がでてしまいそうだ。 スマホを操作して、女の子に連絡する。 とりあえず気乗りしなくても発散するだけでなにか変わるかもしれないし。
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