第三章

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考えてみて…か。 もしも、水瀬さんと付き合うってことになったらキスとかそれ以上のこともするんだろうか? っていうか水瀬さんは本当に俺でいいんだろうか。 確かに特に誰と付き合ってるとか噂は聞かないけど、他部署の子からも声がかかったりしているのは知っている。 モヤモヤする。 今までこんなに心を乱されることなんてなかったのに。 頭に浮かぶのは、折原とあの女性の後ろ姿。 「…彼氏、か。」 今まで告白とかそういう誘いがなかった訳じゃない。 ただよく知りも知らない相手と付き合う、ということに抵抗があった。 水瀬さんは一緒に仕事をしてきてどういう人かもなんとなくわかる。 …掴めない人物ではあるけど。 尊敬しているし、好意を持っているもの確か。 それから返事をしないまま、時間だけが過ぎていく。 水瀬さん自身も特に返事を催促したりはしない。 「…なんか、浮かない顔してるけど。」 俺の変化に気づいたのは土生。 幸い、今日は食堂で2人で周りに人もいない。 「水瀬さんに、付き合わないかって言われた。」 「ハッ!?」 案の上、普段穏やかな土生も驚いている。 「…そう、なんだ。え?香椎と水瀬さんてそういう感じ?」 「いや、全然。ただちょっと相談した時に話の流れでそういう話になっただけ。」 土生は考え込んでいるようで、 「まー俺はさ、香椎が決めた事なら応援するつもり。ただ正直さ、最近なんかあったのかなとは思ってた。 ぼーっとして考えてることもあれば、急に真っ赤になって頭抱えたりしてて、香椎もこうやって誰かに振り回されたりするんだなって新鮮だった。」 折原とのことも…土生だったら話せるかな…。 「うん…。あの…さ、それなんだけど・・・・・・・・・。」 かいつまんで話すと 「………ッ。」 今まで見た事ないくらい、土生の顔が引きつっている。 「それ、は・・・マジ、なんだよな?」 「うん、マジ。まー今はもう無かった事みたいになっているけど。」 そう。だってもう至って普通どうり…っていうか前より接点ないくらいだし。 「いやー、そうかな?だって折原、最近変わったよね?」 …変わった? 「何が?」 「最近女の子から誘いを受けても全部断ってるよ。前みたいに遊んでないじゃん。しかも前より香椎とケンカもしてないし。」 「……誰か特定の相手でも出来たんじゃね?」 この間歩いていた女性の後ろ姿が頭をよぎる。 「そういうことも言ってなかったしなー。まぁ俺はβだからαとΩのことはよくわからないけどさ、二人とも抑制剤服用してて、それでも惹かれあうってなんか特別な理由がありそうなもんだけど…。普通は香椎が発情したってαだってヒート抑制剤服用してんだから抑えられそうなもんだし。 次の発情期っていつ?」 「それは俺にもわかんない。ただ長期間の服用で効きにくくなってくる人もいるらしいからな…。 とりあえず次の発情期は2週間後くらいだからその期間は様子見ながら会社も休もうかと思う。ほかの人に迷惑かけるわけにはいかないし。」 折原と同じように、別の人間を巻き込むことは避けたい。 「お二人さん、話し込んでるけどなんの話ー?」 同じテーブルに座ってきたのは桐山と折原だった。 「…いや、別に大した話じゃない。な。」 「あーうん。」 二人は気にする様子もなく食べ始めた。 斜め前に座る折原の顔を、正面から久々に見た気がする。 デスクは隣で会話はしてもあまり顔みながら話すことはないもんな。 「……何?」 急に折原が俺の視線に気づいたのか顔を上げた。 …ヤバい、無意識に見すぎてたか。 「や、別に。すげー食うなと思っただけ。」 「お前が食わなさすぎなんだよ。俺は普通。」 「……。」 何やってんだ俺は…。 土生は目の前で笑ってるし。
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