第三章

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「香椎、ちょっといい?」 後ろから声をかけられて振り向くと水瀬さんだった。 「はい。どうかしましたか?」 何の用だろう?仕事のことかと思って訊ねると、こっち来て?と言われるまま連れていかれた。 っていうか手、手を引かれているんですけど…。 人の眼をきにしつつ、土生を見ると笑いながら行って来いと言ってくれた。 連れてこられたのは、使われていない会議室。 「…あの」 「悪いね、話し中だったのに。」 「いえ、もう戻ろうかと思っていたところだったので。」 もしかして…この間の返事、とか? 「今週末、空いてたらデート、しない?勿論香椎の仕事が終わってからでいいからさ。」    デートって、響きが恥ずかしすぎるんですけど。 「…あ、はい空いてます。」 そっか、良かった。と安心したように笑う水瀬さん。 もしかしてあれから俺が意識しすぎて、水瀬さんに気をつかわせていまっていたのだろうか。 「…俺急いでないから焦って考えないでね。俺のことをしっかり知って、それから返事もらいたいんだよね。だからこうやって誘ったりするけど、嫌な時は嫌って言ってくれていいから。」 どうしてこんな人が自分を気にかけてくれるんだろう。 水瀬さんといると、安心する。 それから自分のデスクに戻ると、土生が後ろから小声で話しかけてきた。 「大丈夫だった?」 返事だったのかと心配してくれていたらしい。 「うん、その…まぁ。」 誘われたことを言おうか迷っていたら、 「データ入力。」 バサッと資料がデスクに投げられた。 勿論隣の折原から。 いつものことながら感じ悪い…。 「了解。」 それだけ返事を返し、土生にまた後で話すとだけ言っておいた。 言われた入力をしていると、隣から視線を感じる。 …なんなんだ、気になるんだけど。 「・・・・・・・何。」 画面を見ながら、何か言いたい事があるならはっきり言えばいい。いつもみたいに。 「いや、…べつに。」 「……。」 見てたことは否定しないってことは何かあるんだろうけど…。 折原は普段ズケズケ言う分、こう濁されるとよくわからない。 そのまま週末を迎えると思いきや…。 「今週末金曜に社長から課で飲み会でもしろって軍資金いただきましたー。営業組が新規をバンバン取ってるからってねぎらいしてくれるらしいぜー。」 …あー今週末って。 「あらら、仕方ないね。また別日にしよっか?」 隣から水瀬さんがわかりやすく肩を落として言ってきた。 「…そうですね。俺はいつでも暇なんで。」
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