第三章

8/13
前へ
/75ページ
次へ
「あれ、向こうは大丈夫なんですか?」 向こうでは重役の人たちが話込んでいるようだし…。 「香椎は飲みすぎてない?なんか退屈そうだったからさ。二次会はどうする?俺はたぶん上に連れてかれそうなんだけど。」 確かに、水瀬さんは上からも信頼されていて、いずれは重役の仲間入りしそうだな…。 「あー…俺はおとなしく帰ります。あんまり騒がしいの好きではないしお酒も長い時間は飲めないので。」 「そっか…そうじゃないかなとは思ってた。残念だけど。」 周りがうるさいせいかいつもより近い距離に、少し緊張する。 「じゃ、呼ばれてるから戻るね。 ・・・・あ、飲みすぎちゃダメだよ。香椎の可愛いとこほかのやつに見られたくないし。」 そっと耳元で響く低音に、不覚にも顔に熱は集まる。 慌てて耳を押さえる。 …分かってたことだけど、なんか慣れてるというか俺だけが翻弄されてアワアワしている気がする。 とりあえずお手洗いにいって、冷静になろう。 席を立って手洗いのドアに手をかけた。 少し開いたところで声が聞こえてきた。 「…えーマジ?あの人そうだったんだ。」 「え、お前知らなかったの?」 「いや、綺麗な顔してるなとは思ってたんだけどさぁ。うちの会社でΩって珍しくない?光成さんは知ってたけど。」 「首輪だって目立たないけどしてんじゃん。まーあの人なんか少し近寄りにくい感じあるけど。」 だぶん、中で話しているのは営業の奴だろう。 しかも上じゃなくて下の奴だな。 どうするかな…コレたぶん俺の話だよな。 「一回でいいからΩの男としてみたいよな。すげぇ良いらしいじゃん。」 「確かにな。でも会社の先輩はさすがにまずいって。おい、聞いてる?」 酔っているのか若干呂律回ってねぇし。 ダメだ…入れない。 とりあえず戻ったほうがよさそうだ。 そう判断した瞬間… ギギッと少し開いた扉が音を立てた。 「「あ。」」 お互い固まる。 そりゃそうだよな…。 「え…っと、香椎さんどうそ…。俺らもう出ますんで…。」 そういって一人がもう一人を引きずって出て行く。 「あ…あぁ。」 聞かなかったことに…するべきなんだろうな。 Ωってだけで…ビクビクしながら生活しないといけない。 とりあえず個室に入って時間潰すか…と思って鍵を掛けようとした瞬間、勢いよく扉が開いた。 「ぇ、ぅわッ!」 入ってきたのはさっきの二人のうちの一人。 「…香椎さーん、さっきの話、聞こえてましたよね?」 こいつ…。 「…だから?」 「俺に一回させてくれません?男同士だし減るもんじゃないじゃないですか?ちゃんと奉仕しますし。」 「それで俺が了承すると思う?お前…ッ離せ!」 手首を掴まれ、そのまま個室に押し入られる。 「おい!」 立ったまま首元にすり寄られた。 「ホントだ、首輪、してますね。いい匂い。俺も目立たないけど実はαなんですよ。」 壁に抑えられている手は動きそうにない。向こうは片手なのに。 …力では敵わない、か。 チュッと首に吸い付かれた時、ぞっとした。 気持ち悪い。 「くそ…ッ!」 蹴りを入れても予想していたのか足の間に入られてしまう。 腿で下半身をゆるゆる擦られる。 絶対感じない。こんな奴で。 反応してしまったら俺の負けだ。 嫌だ! もう一人の奴は何してんだ…。さっきは止めてただろ…。 「……ッ、嫌…だっ。」 「あぁやっぱ綺麗っすね…。手が片手しか使えないのは不便ですけど。」
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

514人が本棚に入れています
本棚に追加