第三章

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お互い、肩で息をしている。 会話はない。 ……気まずい。 しかも俺、前触ってねぇのに名前呼ばれただけでイッちゃったし。 「…大丈夫か。」 「…っあ、あぁ、たぶん。」 なんだかなーこれ、前もどっかで…。 「っくく、お前、っははは。」 えぇー…ナニ? こいつ大丈夫か。 「…なんか香椎って。」 「ナニ。」 「いや、なんでもない。」 「これで、チャラだからな。不能じゃないってわかったから大丈夫だろ。」 俺の体であんだけガッツリ勃ってたら、絶対普段も大丈夫だろ。 「あー…まぁ…そう、だな。 一つ聞いておきたいんだけど。香椎って水瀬さんのこと好きな訳?」 「れ、恋愛感情はよくわかんないけど…尊敬はしてる。よく周りを見てるし、あの人優しいし。 で?今回ヤッてみたいっていってたけど、解決はしたわけ?珍しくなんか悩んでたんだろ?」 どういう気持ちになったら恋愛感情なんだろう。 欲情したら? ドキドキしたら? 俺にはよくわからない。Ωとαなんてましてやフェロモンで惹かれあったりもするし。 折原は少し考えるようにして口を開いた。 「……香椎さ、運命の番って聞いたことある?」 前に性教育の授業で少し聞いたことはあるかもしれないが、興味なかったせいか詳しくは知らない。 「聞いたことはあるけど。それが?」 「…俺と香椎がそうなんじゃないかって思うんだけど。お前はどう、思う?」 「……。」 俺と折原が運命の番? まさか。 あんなに犬猿の仲だった相手が運命? ありえないだろ…。 「ずっと考えてたんだけど。俺も香椎も抑制剤内服してて今まで症状は抑えられてた。それが二人同時に効かなくなるか? 香椎が本社勤務でペア組むようになってから、物理的な距離が近くなって発情を誘発したんじゃないかって思っている。 ……それに、お前のフェロモンにありえないくらい興奮すんだよ。」 「な……そ、それはいろんな偶然が重なったのかもしれないだろ。 だいたい、運命の番なんて、生きてても巡り合えるかどうかっていうくらいだろ?そんな近くにいるか? …確かに俺もお前のフェロモンに興、奮するけどそれはΩだからであって…。」 つーか、なんでそんなにこだわるんだろう。 折原は俺のことが嫌いだろ? もし仮に運命の相手だったからって、俺と一緒になる必要はないわけで。 「…俺はお前のこと嫌いではないけど苦手だ。だらしないし、チャラチャラしてて合わないなって思う。 運命の番ってのに拘る必要はないんじゃないか? 仮に!もし仮にお前の言うように運命の番だったとしても、お互いその…恋愛感情がなければ空しいだろ。 お前なら相手は選び放題なんだし。」 そう、 運命なんて言葉に惑わされるな。 自分の意志で気持ちで決めないといけない筈だ。 「…そう、だな。確かに俺はだらしないしチャラチャラしているのも自覚はしている。 香椎はいつも正しい事を言ってるよ。正しくあろうとしてるって感じ。 ……いや、なんでもない。忘れてくれ。」 そうして、折原は帰り支度を始めた。 …少しきついことを言っただろうか。 「おり」 「悪かったな、変な事頼んで。じゃ。」 なんとなく、その笑顔が痛々しくて。 理由はわからないけれど、俺も少し、胸が痛かった。 折原が帰ったあとも、俺は暫く玄関の扉を見ていた。
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