第五章

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「じゃ、お疲れ様です。」 折原が帰ってから、残ったのは俺と水瀬さんだけ。 デートする、と言っていた日は飲み会でなくなり、それからは特に進展もなかった。 …なんか二人きりだと緊張するなぁ。 「そういえば…香椎は男と付き合ったことあるの?」 いや、男というか付き合ったことないし。 …折原とはしたけど。 「えと…ないです。」 「ふぅん…。そういえば、飲み会の時ってなんか合ったの?トイレの方で折原が珍しくキレててさ。」 もしかしてあの時のことか。 「なんていったっけな…営業の…笹原って言ったっけな。ちょうどトイレに行ったら胸倉掴んでんだもん。びっくりしたよ。俺が行ってなかったら絶対殴ってたよ、あれ。」 …怒って、くれたのか。 心配も、してくれてたもんな。 「そう…ですか。」 「アイツ、チャラチャラしているけど基本的に揉め事とは無縁じゃん?ちょっと意外だったわ。」 確かに誰かと揉めたりとかも聞かないし、揉めるって言ったら俺くらいだろうな。 「あ、違った。香椎とはよく揉めてるな。そういや、最近は少ないね。」 「…まぁお互い大人になったと思ってクダサイ。」 「……それだけ?」 え。 なんなんだろう。 水瀬さんは肘をついて顎に手を当てながら俺を真剣な目で見据えている。 「…それだけ、とは?」 「ううん。なんでもない。 じゃ、今週末。デートしよ。こないだダメになったからさ。 本当は今日誘いたいんだけど明日も仕事だし。一緒に帰る?送るよ。」 「は、はい。あ、でも今日はまだ仕事があるんで先帰ってください。週末楽しみにしてます。」 良かった、と真剣な目で見つめられてドキッとする。 眼が逸らせない。 「香椎、キスしてみたいんだけど、いい?」 え、き、キス!? あたふたしていると 「…好きだよ。」 響く言葉は甘くて、優しい。 …俺は、そっと目を閉じた。 優しく重なる唇は、折原としたどのキスとも違う。   「…嫌、だった?」 唇が離れたあと、至近距離で目が合った。 恥ずかしくて、でも嫌じゃないことは伝えたくて頭を振る。 水瀬さんは少しほっとしたように笑った。 「じゃ、俺帰るけど。本当にいいの?待ってようか?」 「あ、はい。大丈夫です。明日も仕事ですし、待っててもらわなくても。 お疲れ様です。」 まだドキドキしてる。 水瀬さんてなんていうか…大人の男のフェロモンが。 キスした唇にそっと手で触れてみる。 水瀬さんは俺をそういう対象で見てるってことだよな!? っていうことは折原としたようなこともしたいって思う訳で…。 もし付き合ったらそこも込みって事・・・? …ダメだ、仕事に集中できない。 とりあえず目の前の仕事に集中することにした。
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