第五章

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日曜日から抑制剤の薬の量を増やしているせいか、体がだるい。 副作用かな…。 …まぁだんだん慣れてくるんだろう。 仕事はデスクワークが基本だし、とりあえずは出社しよう。 「おはようございます。」 いつも通り出社して、席に着く。 水瀬さんはいないようだった。 外回り…かな。 「…はよ。」 隣から小さく聞こえた声にびっくりして横を見る。 折原から俺に挨拶なんて初めてじゃないか!? 「あ、あぁおはよ。 …こ、こないだはありがとう。コーヒー。」 そういうと驚いたように目を開いた後、耳を赤くしてぎこちなく「あぁ、」とだけ答えた。 …もしかして照れてる?意外、なんだけど。 なんていうか調子狂うな…。 昼になってもだるさは取れなくて、食欲もない。 …今日はさすがに早めに仕事切り上げて帰るようにしないと。 「折原、香椎飯いこうぜ。今日食堂?」 土生が声を掛けてきた。 「…あー俺あんま食欲ないから今日はいいや。適当になんか買ってくるわ。」 なんか食べてる時間あったらちょっと寝たい。 デスクに突っ伏して目を閉じた。 暫くすると、 「香椎、寝てんの?珍しい。」 「え、あぁ、あ!水瀬さん。」 外回りから帰ってきたのか水瀬さんが居た。 「どしたの?寝不足?」 顔を覗き込まれて、眼の淵を撫でられた。 …水瀬さんてナチュラルにこう、人と距離を詰めるのがうまいっていうか免疫のない俺はいつもあたふたしてしまう。 「っは、はは、そ、そんな感じです。」 発情期真っ只中で薬増量中でだるいんですなんて…言いにくい。 でも昼からも仕事だし、すきっ腹だと気持ち悪くなりそうだから飲み物だけでも飲んどこうかな。 「ちょっと自販行ってきます。」 そういって立ち上がった瞬間、 「…ッ!」 景色がぐるぐる回る。 あーヤバい、足に力はいんない。これ倒れるかも。 そう思って衝撃に目をつむったけど、衝撃はなかった。 代わりに誰かの腕が俺を抱きとめてくれた。 この匂い、知ってる。 「…大丈夫か。」 突き放す訳でもなく、折原が俺を支えてくれている。 「わ、悪い。座りっぱなしだったから立ちくらみみたいな感じ。」 手で制して、なんとか自分で体勢を戻して席に座りなおす。 ゴトっと置かれたコンビニの袋。 「やる。」 「え。」 中には栄養ドリンクやゼリー、栄養補助食品が入っていた。 …もしかして、わざわざ買いに行ってくれたんだろうか。 「あ…あり、がと。」 「へぇ、優しいね折原。前はそんなことしなかったと思うけど。どういう風の吹き回し?」 水瀬さんも俺と同じように驚いている。 「別に。ちょうどコンビニに行く用事があったのでついでですよ。」 「…そ。ま、そーゆーことにしといてあげるよ。香椎、体調悪いんだったら早めに帰りなよ?送っていこうか?」 俺はぶんぶんと首をふった。 「大丈夫ですよ。それに今日は水瀬さん部長に呼ばれてたじゃないですか。朝一に比べて楽になってきたので。でも早めには帰るようにします。」
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