第五章

6/6
前へ
/75ページ
次へ
そうは言ったけど、昼からもだるさは続いて、めまいがする。 …薬の副作用ってこんなひどかったっけ? さすがに会社で倒れるわけにはいかない。 「悪い、ちょっと体調悪いから早退するわ。水瀬さん今呼ばれてるから言っといて。」 土生にそう伝えると、心配そうに俺をみた。 「おい、香椎顔赤いぞ。お前熱あるんじゃねぇ?」 …熱?そういえば頭もぼんやりしてるかも。 「俺、送るわ。どうせこれから外周りいこうと思ってたし。」 ガシッと肩を支えられる。 こいつ、どうしたんだろう…。最近凄く優しいけど。 「え、折原頼んでいいの?」 「いいよ。別に。」 言い方はそっけないけれど、しっかり支えてくれている。 「あれ、…香椎どうしたの?」 丁度水瀬さんが帰ってきた。 俺の顔を見るなり、額に手を当てる。 「やっぱ体調悪かったんだ。俺送っていこうか?」 「俺が行きますんで…いいっすよ。」 「……折原が?」 「ちょうど、外回り行こうかと思ってたんで。ほら、いくぞ。」 ふらつく俺を支えながら歩き出した。 「…っついたぞ、」 そのまま俺はベッドまで運ばれた。 「…悪い。」 熱が上がってきたのか寒気がする。 「薬とかねぇの?…あ、あんじゃん。」 折原が手に取ったのは朝服用した発情抑制剤の空だった。 「それは、、、朝飲んだやつ。しかも抑制剤…だから。風邪薬はそっちの棚に…。」 「お前…何錠飲んでる。これ、朝飲んだ量か?」 「い、今ちょうど発情期間だから多めに飲んでる。だるいのもそのせいかと思ってたんだけど。…風邪みたいだな。」 折原は手に持っていた薬の空をおいて、棚の方へ行き、薬を探している。 「とりあえず、着替えろ。スーツじゃ休めないだろ。」 言われた通りに、スーツを脱いでスウェットに着替えた。 そのままベッドに倒れ込んで布団にくるまった。 …寒い。 ガタガタ震えながら布団にくるまっているとそのまま寝てしまった。 フワフワあったかい。 なんか久しぶりに気持ちよく寝ている気がする。 眼を開けると、カーテンから差し込む日は薄暗かった。 「あれ…今、何時。」 時計を見ようと体をひねると 「ッわ…、え、折…はら。」 俺の枕元で手を握ったまま目を閉じている折原。 そういえば…連れてきてもらったんだった。 薬箱や飲み物などがテーブルに出ているところを見ると、看病してくれていたのがわかる。 …何、こいつ。優しすぎて気持ち悪いんだけど。 自分が弱っているせいか、なんか泣きそう。 「っんん。」 折原がゆっくり眼を開けた。 「あれ、起きた?…体調どう。」 「だ、だいぶ楽になった。…その仕事、大丈夫か。」 外回り行くって言ってたし、仕事に支障出てないんだろうか。 「あー…まぁ、それは大丈夫。アポとってる訳じゃなかったし。」 「そ、そうか、それならよかった。…あり、がとう。すごく助かった。」 その時ポンポンと頭に手が触れた。 「無理すんなよ。ちゃんと頼れ。しんどい時はしんどいって言えよ。別に俺じゃなくても土生や桐山でもさ。 マジで震えたりしてたからどうしようかと思った。」 「う、ん。悪い。」 それから俺は3日間仕事を休んだ。 仕事終わりに土生や桐山が来てくれたりしたけれど、折原は姿をみせなかった。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

514人が本棚に入れています
本棚に追加