第六章

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「…珍しいな、折原に呼び出されるなんて。」 「すいません、休み時間に。」 香椎は今日も休み。 昨日土生と桐山がお見舞いに行ったと言っていたけれど、熱は下がってきていて明日には出てこれそうとのことだった。 それまでにどうしても、水瀬さんと一度話しておかないといけない。 「そういえば、香椎はだいぶ体調落ち着いてきたみたいだね。」 …この人連絡とってるんだな。 「そう、みたいっすね。」 「驚いたよ、仲悪いのかと思ってたけど。…俺から奪い取るくらいだもんね?勿論理由はあるよな?」 同じ目線で、こちらの心の中を読むような視線。 …この人に心理戦で勝とうとするな。 「まず、それは謝ります。…もう一つ、アイツに興味ないっていったことも。」 同じαとしても、人間としてもきっと水瀬さんには勝てない。 「…それは、香椎のことが好きってことかな?」 「……よく、わかりません。」 好きとか嫌いとか、よくわからない。これが俺の正直な気持ち。 言い方とか態度とか可愛げなくて嫌いだけど…ふとしたことで愛しいと思えたり、苦しんでいたら手を差し伸べたいと思う。 友人だからなのか、運命の相手だからなのかはわからない。 「わからない…?」 「…わからないんです。俺、チャラチャラしてましたけどちゃんと誰かと付き合った事もないし。 その…俺はあいつに運命っていうのを感じています。…香椎は感じてないみたいですけど。」 「運命の…番か。…でもそれって香椎は感じていないってことは違うんじゃないの。」 水瀬さんの言うことはわかる。 正論だし、俺の言ってる事は根拠も何もない。 「…俺は手を引くつもりはないよ?香椎だって俺に対して好意的だって事は自覚しているしね。それが恋愛感情かどうかは別としても。」 分かってる。手を引いてもらえるなんて初めから思っていない。 「分かってます。俺の…意志を伝えたかっただけなんで。」 「宣戦布告って意味でいいかな?」 「……はい。」 真剣な目で、水瀬さんの視線に負けないように見返す。 「ははっ、なんか折原面白いね。前はそんな奴じゃなかったと思うんだけど。 長いものには巻かれろみたいなさ。 …ま、俺も遠慮しないから。」 水瀬さんが姿を消して、体の緊張が解けたのか床に座り込む。 「…言った。…つぅか、あの人マジ怖ぇ。」 オーラっていうか、あの目がさ。 その翌日、香椎が出社してきた。 「…はよ。…もう大丈夫なのか。」 隣に座った香椎がちらりと俺の方を見る。 顔色もいつも通りだ。 「…いろいろありがとう。た、助かった。」 たったそれだけのことで嬉しいなんてさ。 「気にすんな。」 それからは普段の日常に戻る、筈だったけど、 「…おい、アレ、何。」 ここ最近4人で食堂で食べることが多かったが、水瀬さんは香椎を誘って二人で食べることも増えた。 「何って見たまんまじゃない?」 「イライラすんなよ、折原。」 「別にしてない。」 「……。」 土生も桐山もニヤニヤしながら俺を見る。 「…なに」 「べっつにー。な、土生。」 「…うん。折原顔、眉間に皺寄っている。」 そのやり取りを数度繰り返しながらも、俺は気になってあの二人を見ていた。
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