第六章

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「あれ?水瀬さんじゃない?珍しいね食堂にいるなんて。声かける?」 「あ、ホントだ。あれ、香椎さん?隣の。」 水瀬さんは社内でも目立つ存在だ。 食堂に集まる社員たちの間で少しづつ注目を集める。 「二人付き合ってるのかな?…残念だなー。水瀬さん憧れてたのに。」 「香椎さんてΩだったよね?前から水瀬さん香椎さんには構ってたもんね。」 …これはもしかして。 「はは、水瀬さんやるなぁ…。しっかり周りから固める感じ?」 「…香椎はこの状況気づいてないんだろうなぁ。」 土生も桐山も感心している。 その時水瀬さんと目が合った。 その瞬間フッと挑発されるように笑われる。 水瀬さんてさわやかに見えて本当は凄い腹黒いんじゃねぇか…。 香椎も、普段表情一つ変えないくせに、穏やかな表情してんじゃねぇよ。 そういえば…。俺アイツが笑ったところ見た事ないかも。 「…なぁ、土生。香椎って笑うことあんの?」 付き合いの長いこいつなら、笑ったところくらい見た事あるかもしれない。 「…あーまぁあるけど。本人は嫌みたいだけどね。 ほら、あの容姿じゃん?綺麗だの可愛いだの女の子みたいに扱われるのが嫌なんだって。笑うとね、確かに可愛いから特に嫌なんだと思うよ。」 「あー、確かに見た事ないわ俺。だから入社式の時こいつに切れてたのか。そりゃそうだよな、女扱いされた訳だし。」 「そ。一番言われたくない事をなんの遠慮もなしに言って、しかも遊び感覚ってのがもう生理的に嫌いだったんでしょ。 …まー今はそこまで嫌ってない感じするけどね。」 土生ってたまにストレートに抉ってくるよな。 「嫌いオーラめっちゃ出てたもんなー。」 桐山、お前も楽しそうに言うな…。 「ま、今の折原ならさ、香椎ともケンカにならないんじゃん?」 …まぁ確かに。 ケンカの原因となってたものも今はないわけだし。 つーか、さっきから水瀬さんと香椎距離近くないか? 堂々といちゃついてるし、アイツも満更でもなさそうだし。 …あ、席立った。 二人が歩いてこちらに向かってくる。 咄嗟に俺は視線を下に向ける。 「香椎、飲み物買って行っていい?」 「あ、はい。」 俺の後ろを通り過ぎるときに鼻で笑われた気がするのは気のせいだろうか…。 「ありゃりゃ、もしかして折原ってライバル視されてる?同じαだし…。」 「…しらねー。」 バクバクと止まっていた手を動かして食べ始めた。 …イライラする。 どうしていいかも自分でもわからない。 思うようにいかない。 「トイレ寄ってくから先戻ってて。」 洗面台で自分の顔を見る。 …何イラついてんだよ。 水瀬さんに自分で宣言したんだからあの人が何か仕掛けてくるなんて分かってただろ。 クソ…。 キス、したいし、抱きしめたいし俺でいっぱいにしてぇ。 これって嫉妬なんだろうか。 覚えてないかもしれないけれど、この前キスした時のあんな顔で水瀬さんともキスしたんだろうか、、、。 はぁ… 「あ、折原、か。びっくりした。」 トイレに入ってきたのはハンカチで口元を押さえた香椎だった。 「え、何それ。」 よく見たらハンカチが赤く染まっている。 「あ、あぁ大したことない。鼻血が急に出ちゃって。今はもう止まってるからハンカチ洗おうと思って。」
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