第一章

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そう、あれは入社式。 折原とは席が隣だった。 背も高いし、体もがっちりしていて髪は少し固めて流していた。 目鼻立ちはくっきりとしていて、強い眼力があって人目でαだなとわかった。 こんな仕事ができそうな奴が同期なんだな…と思っていたら急にこちらを向いて 「ねぇ、名前聞いてもいい?」 と言われたので、人見知りだったこともあり、簡潔に名前だけ教えた。 「イオリちゃんね。」 ……ちゃん?え?もしかして女と思われている? Ωが外見的にも小柄だったりするから間違って見られることは時々あった。 「あ、いや」 「ね、今日さ、終わったら飲みに行かない?凄いタイプなんだよね。あ、俺上手いし大丈」 「いや、だから」 なんだ、この軽い男は…。 人の話を聞けよ。 「おい!折原、その…香椎って男だぞ。」 折原と呼ばれた男は俺をつま先から頭のてっぺんまでしっかり見て、 「………、えー!!マジで?どう見ても女じゃん?…あ、もしかしてΩ?悪い悪い。だってどう見てもさ…悪気はなかったんだよ。」 どう見ても…女?悪気はない? 初対面でなんなんだ、この非常識で軽い男は。 「…いえ。見た目に反して緩い下半身なのはわかりました。αは才能あって頭の回転が速い方が多いですが、そうじゃない方もいらっしゃるんですね。」 と、史上最高の愛想笑いで言ってやった。 それからこいつは本社、俺は別の営業所で会うこと自体は滅多にないが、緊急の会議や集まりなどで合うと、こうして嫌味を言いあっている。 「まーまー、お前らペアになったんだし、少しは仲良くしろよ。」 「……。」 もうアレだ。 ため息しか出てこない。 マジで俺、仕事辞めたい。 だけどな…慣れた職場やめて、じゃあΩで雇ってもらうところ探すって結構大変なんだよな…。 一時休戦し、本社のデスクに案内された。 「じゃ、折原ここな。んで香椎は隣。水瀬、お前香椎の隣な。いろいろ教えてやってくれ。」 「ほーい。よろしくね、折原と、香椎。折原は同じ本社だからわかるけど、香椎は久しぶりだね。」 水瀬 葵(みなせ あおい)30歳。 ふざけておちゃらけた感じだけど、生粋のα。 営業もバリバリしながらデータ管理まで一人でこなし、新規開拓したり教育係や新しいプランを出したり、とにかく凄い人。 身長も高くて、すらっとしているけど体格のいい体、少しタレ眼で肩につかないくらいの茶髪なのに全然チャラチャラして見えないところは誰かとは大違いだ。 「ッはい。お久しぶりです。よろしくお願いします。」 「うん。光成からも頑張ってるって聞いてたよ。よろしくね。」 「俺らもいるからよろしくーー。」 背後から聞こえてきたのは 「おー!桐山と土生じゃん。」
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