第六章

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そんな時に来客を知らせる電話が鳴った。 「あ、得意先です。水瀬さん、ちょっと行ってきます。」 話を中断してエントランスに迎えに行く。 つーか 「リサ、なんだよ。こっちまで出向くなんて珍しいじゃん。」 セフレみたいな感じで大学からの付き合いだった。 お互い恋愛感情は一切なく、前に運命の番について意見を聞いてからそれっきりだったな。 お互いαということもあり、あまり気をつかわずに話せる相手だ。 「ちょっと近くまでくる用事があったから。 前言ってた資料ももらって帰りたいし、あと…運命の番とやらも見てみたいしね。 同じ会社なんでしょ?」 とゆーか絶対最後のがここに来た目的だよな…。 まぁ騒ぐような奴じゃないから大丈夫だと思うけど。 「…はぁ。そんなことだろうと思ったよ。じゃないとわざわざ来ねぇよなリサは。」 「まぁいいじゃない。私もね、恋人できたんだよねー。やっぱいいわねー恋って。」 …よく言うよ。いつも3か月ももたないくせに。 とりあえず使っていない会議室に通して資料渡して帰って貰おう。 「聞いてる?なんかどうせすぐダメになるみたいな顔してるけど。あ!!」 急にグイッと腕を引かれた。 「ね!あの子とか!?」 遠目から指さすのは違う課の女性。 小柄でかわいらしい雰囲気の子。 …確かに俺の好みはしっかり把握されている。 「いや、違うし。 …だいたい女じゃないから。」 「はぁ!?」 リサは相当びっくりしたようで俺の顔をまじまじと見た。 「お、男の人だったの?や、だってあんた男は絶対ないって昔から言ってたじゃん。」 あーそういえばソウデシタネ。 その時正面から水瀬さんと香椎が歩いてきた。 香椎がこちらを見て、俺と視線が交わる。 だけどすぐに外された。 通り過ぎるまでスローモーションのように感じる。 「…さっき通り過ぎた小柄の子、でしょ。隣にいた人αね。オーラがすごかった。」 「……。」 やっぱりバレたか。 「わかるわよ、向こうもなんかこっち意識してるっぽかったし。…もしかして」 「あぁ、俺の気持ちは伝えてる。」 進展はしてないけど。 「…でもあのコ、」 「何?」 「…なんでもない。」 資料も渡して簡単な打ち合わせもしてデスクに戻る。 「戻りましたー。香椎、なんか入力終わってないやつある?」 椅子に腰かけてデータの整理と明日の仕事内容を確認する。 「……や、大丈夫。」 そういいながら、抱えているその厚みは全部入力なんじゃ…。 「少し頂戴。大体俺の方は終わってるし、入力してると頭にも入るから。」 「…じゃ、コレ」 遠慮がちに渡された用紙を一通り目を通して入力していく。 まとめてあるから入力自体に時間はかからない。 「………よし、終わった。ほかには?」 「…もういいよ。帰れば?」 カタカタ打ちながら画面を見たまま、いつもより少し低いトーンで言ってきた。 「手伝う。」 あれ、なんか…機嫌悪い? 「いいって。これは俺の仕事だから。」 …これはもしかして、俺は傍にいない方がいいのか? 「…なんか、あった?」
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