第六章

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「別に。」 それきりこちらを見ようともせず、ひたすら画面を見ている。 …なんかしたっけな、俺。 とりあえず、俺はいない方がいいのかもしれない。 「…じゃ、帰るわ。…お疲れ。」 デスクを立って出ていく。 振り返るけど相変わらずこちらを見る気配はない。 「あ、待って。一緒に出ようぜ。」 桐山も席を立って歩いてくる。 「…なぁ、俺なんかしたかな。」 「なんで?」 歩きながらエントランスを抜けて街に出る。 「…香椎の態度?」 桐山が笑いながら俺に聞く。 「……。」 「なんかさぁー折原と香椎見てるといいなって思うわ、俺。 …気になるなら直接聞いてみればいいじゃん。俺はなんとなく理由はわかるけど…それは俺が言うべきことじゃないと思うからさ。」 「そう…なんだけどさ。」 怖いんだよ、俺は。 やっぱり水瀬さんがいいとか、俺とは付き合えないとか自分を否定されたときに俺はどうするんだろう。 「いいんじゃねーの?今までお前の周りにいた子達はさ、割り切ってた子もいたけどマジな子だっていたわけで。そういう気持ちが分かるって事は大きな進歩なんじゃねーの?ま、俺も言えた立場じゃないけど。」 確かに桐山も遊んではいたけど、相手は選んでいるように見えた。 「……桐山、悪いんだけど。」 「はいよ、待つんだろ?…頑張れよ。俺は水瀬さんにも憧れてるけど、一応折原を応援してるから。」 「…あぁ、さんきゅ。」 一応って何だっつーの。 桐山らしいけど。 今こうやって相手の気持ちが読めなくて混乱してるもの今までいい加減な付き合いしかしてこなかったツケなんだと思う。 だから自分の気持ちを自覚した今、ちゃんと相手の気持ちと向き合いたいって思うから。 暫く会社近くで待っていると、30分ほどして香椎が出てきた。 隣には水瀬さん。 少し話をしてから別れていた。 「ッ香椎。」 追いかけるように声を掛けると、俺を見て一瞬びっくりしたような顔をしていた。 「…帰ったんじゃなかったの?」 歩みは止めてくれないようだ。 「なんか怒ってるだろ。言いたい事があるならはっきり言えよ。」 「別に。」 そういいながら歩くスピードを上げた。 っていうか別にっていうような態度じゃねーだろ。 「言わないとわかんねーじゃん。」 「別にわからなくていい。」 「俺はわかりたいから聞いてるんだけど。」 「お前には関係ない。俺に会う暇あったら別に会う人がいるんじゃないの?」 「……。」 あれ、もしかしてリサのこと? 「リサ、アイツは別に、仕事で」 「仕事相手は名前で呼び捨てにしないだろ。」 はっきり言わない香椎に、冷静に話をしないといけないと分かっていても頭に血が上ってきた。 「…何?やきもち?」
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