第七章

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最近折原が優しい。 付き合ってみないかっていう事を言われたときは動揺したし、何言ってんのって思ってたけど。 何気ない会話だったりとか、行動で俺のほうが振り回されている感じがする。 …だから忘れてた。 女性と楽しそうに話している姿。 見た事、ある人。 あんなに打ち解けて話しているのは桐山や土生だけだと思っていてけれど、異性でそういう相手が居たんだ。 通り過ぎるときに折原と目があった。 見てはいけないものを見てしまったような気がしてすぐに逸らしてしまったけど。 ただ、振り返って見た後ろ姿が、いつか見た二人と重なった。 「…さっきの子、美人だったね。オーラあってαっぽい感じがした。」 水瀬さんも感心したように言っている。 凛としていて、胸辺りまで伸びた髪は手入れが行き届いているのかつやつやしていて。 「そうですね。」 明らかにほかの女性たちとは違う対応だったからか 今まであんな光景嫌というほど見てきた筈なのに、モヤモヤする。 イライラする。 「…香椎。どうかした?」 「いえ、…なんでもないです。」 きっとあの二人があまりにもお似合いだったから。 どうしてこんな汚い感情をもってしまうんだろう。 結局、あの光景が頭から離れなくて、つい折原にきつい態度をとってしまった。 仕事相手、なんだろうけどそれだけじゃない。 でもその理由を聞けない。 水瀬さんも俺の様子を見て心配してくれていたのに、どう返事をしたか覚えていない。 そんなことを考えながら歩いていると、後ろから折原が追いかけてきた。 …やっぱ俺の態度が悪かったからだよな。 やきもちかって言われて否定できなかった。 図星、だったから。 俺は…きっとあの女性に嫉妬していた。 折原の隣に違和感なく並べて、お似合いで。 うらやましかった。 売り言葉に買い言葉でつい大嫌いって言ってしまって。 立ち去るときの悲痛な表情 「…俺、何やってんだ。…バカは、俺じゃん。」 分かってしまった。 自覚してしまった。 あんなに嫌いと言っていた奴だけど、なんだかんだで付き合いは合ったし、俺も避けようとはしてなかった。 折原の違う一面を知って言ってドキドキしたり、ハラハラしたり。 あんなに感情を揺さぶられていたのに。 自分のちっぽけなプライドと意地で、折原を傷つけてしまった。 もういいって、そういっていた。 俺のことはあきれて付き合い切れないってことなのかな。 その場所に立ち尽くしたまま動けなかった。
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