第七章

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次の日、俺は会社に出勤し、休んだ分の仕事までこなした。 折原の分も出来るところはしておきたい。 それともう一つ。 俺はしないといけないことがある。 「…水瀬さん、今時間、大丈夫ですか?」 「…まぁ、俺も鈍い方ではないし、なんとなく話の内容はわかるよ。出来れば聞きたくなかったけど。」 そう。俺はこれから水瀬さんに俺の気持ちを伝えないといけない。 「俺、好きな人が出来ました。だから、水瀬さんとつきあえません。」 「気にしないでよ?提案してみただけだし。 ちょっと魔が差してキスしたりしちゃったけどさ。」 この人は最初、周りで騒がれるのが嫌で、お互いの利害のために付き合ってみないって言ってくれた。 …だけど、それなら俺じゃなくてもよかった筈。 それにキスする必要もない。 …俺にすきだよって、そう言った言葉 愛しいように見てくれていた眼も、きっと全部この人の心を現していたのかもしれない。 「…なんてね。ま、さすがにバレてるか。俺の気持ちも。 綺麗な子だなーって思ってたんだよ。光成からも香椎が頑張り屋って聞いてて。目が行くようになった。最初はね。 一緒に仕事してさ、香椎のこと少しづつだけど知って、なんとなく気持ちに気づいたんだよ。 でも…まぁ、俺にとっても賭けみたいなもんだったから。」 笑っているのに、 胸がぎゅっと締め付けられる。 「俺、水瀬さんのことは尊敬もしてるし、人としてすごく好きです。 水瀬さんと一緒にいると安心して、きっと穏やかに毎日過ごせるだろうって幸せだろうって想像できました。 …だけど、知ってしまったんです。気づいてなかった自分の気持ちに。」 「…折原のことだね。」 水瀬さんは納得したように言った。 いつから気づかれていたのかはわからない。 でも周りをよく見て、気が付く人だから、もしかしたら俺が自覚するより前に気づいていたのかもしれない。 「…はい。好きだという気持ちに気が付いたのは本当に最近なんですけど。」 そういうと、 そっか、と小さくつぶやいた。 「…俺さ、結構仕事とか人間関係とか今までそれなりにやってきて、あまり挫折とか経験ないんだ。自慢じゃないけどね。もしかしてこれが初めての挫折かも。 でもさ、…その経験をさせてもらえたのが香椎でよかった。 成就した恋じゃなかったけど、俺は香椎を好きになったこと後悔してないから。 恋人にはなれなかったけど、これからも尊敬してもらえる上司でいるように頑張るよ。」 その言葉に、涙が出た。 自分が認めてもらえているんだって感じた。 「…あり、がとうございます。」 「ま、ダメになったら言って?そん時は俺も手加減なしで口説きにいくからさ。」 ほら、こうやって茶化して、空気が重くならないように気遣ってくれる。 ホント水瀬さんには敵わない。 それから折原のいない中での仕事で慣れないこともあり、大変だったけど、水瀬さんや桐山、土生のフォローもあり、なんとか週末まで乗り切った。 だけど…折原の退院の日。
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