第七章

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事の始まりは桐山の放った一言。 「…利き手骨折って、大変じゃね?仕事はいいとしても生活とか。」 「確かにそうだよな。一人暮らしだったよな?」 土生も同調している。二人とも俺を見てるし。 これはアレか?俺が通ったりした方がいいのか? いや、でもいきなり私生活にガッツリ入っていくのってどうなんだ? 「あー…まぁそりゃ、そうだけど。」 二人の思惑に気づいたらしい折原も答えを濁す。 「…ふ、不便なこととかあったら、行くけど。」 なるべく平静を装って言うと、待ってましたとばかりに 「え、じゃ一緒にすんじゃえばいいじゃん。」 と軽い口調で言われた。 「怪我が治るまでの間でもいいし。」と言われたけれど、一緒に生活するっていう発想がなかった俺はすごく驚いた。 「折原はどうして欲しいわけ?」 二人とも、眼が怖いんですが…。 折原も答えにくそうにしてるし。 そりゃ、付き合うことになった相手にすぐ一緒に生活したいだなんて普通そこまでは思わない。 困るに決まってるし。 「あのなぁ、二人と」 「…来て、くれんの?」 は? さっきよりも一層驚いた俺が折原を見ると、俺をまっすぐ見てる。 「ねぇ、香椎。来てくれんの?」 「それは…だって。お、折原がそれでもいいなら…俺は構わないけど。」 …なんで素直に言えないんだ俺は。 ホントひねくれてるって自覚してる。 でもさ、いいよ、なんてパッと言えないんだよ。 「香椎がいいなら来てほしい。」 「わ、わかった。」 そのやり取りをみて、二人がにんまり笑っていたのは言うまでもないけど。 なんかくすぐったい、こういうの。 退院した翌日から、俺は折原の家に泊まることになった。 ある程度買い物も済ませて、荷物も着替えとか少し持ってきた。 まぁまた取りに帰ったりすればいいしな。 「なんか、香椎が料理したり家事したりしてんの意外。」 俺が忙しく動いているのを見て、パソコンで仕事をしながら嬉しそうに笑う。 「…いや、俺も1人暮らししてるからある程度のことは普通にできるよ。折原もそうだろ?」 「はは…俺は料理は全然だめ。ほぼ外食だったから、キッチンに人が立ってるの新鮮だわ。」 確かにキッチンには調理器具はあるものの、あまり使った形跡はない。 綺麗だけれど生活感がないのはそのせいか。 「………。」 特に話をするわけでもなく、同じ空間に二人でいる。 付き合い始めだけどラブラブ…とかそういう感じでもないのはやっぱり男同士だからなのだろうか。
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