第八章

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聞こうか迷っていたら、香椎が空を見上げて少し笑う。 「…満月だな。雲がなくて良く見える。」 「ホントだ。」 月も綺麗だけど、香椎の微笑むように穏やかな表情の方が綺麗だと思った。 「…お前、聞きたい事あんじゃないの?顔に書いてある。」 月を見たまま、なんでもないように香椎は言う。 最近、俺がこうやって迷っているのも気づかれてしまう。 「いや、香椎の家族のことが気になってさ。俺の家は両親ともαだったんだ。 長男もα、俺は次男で弟がβでさ。 俺のじーちゃんがαとΩで二人いたんだよ。そこで運命の番の話を聞いたから香椎はどうやって知ったのかとか気になっちゃってさ。ごめん。」 そっか、と小さくつぶやいた後 「俺は父がαで母がΩだったよ。…まぁ、普通の家庭かな。別にαだからって会社経営とか特別な仕事もしてないし。ただ両親の仲はよかったよ。 運命かどうかは聞いてないけど、二人で番関係を結んで一緒にいることを選んだんだから良かったんだと思う。」 「…いいな、そういうの。 俺さ、確かに香椎と番になりたいとは言ったけど、別に今すぐってわけじゃないから。 焦るつもりはないし。 番関係って一生消えないしさ、ちゃんとお互い心の準備が出来てからって思ってるから。」 最近ずっと、どう伝えようか迷っていた。 それをやっと言えた。 運命の相手だからって言って焦るつもりはないし、ちゃんと相手の心を知って同じ気持ちでそういう関係になりたい。 「…………。」 あれ、返事がない。 香椎の方を見ると、俺を見て固まっていた。 「…え?俺なんか変な事いった?」 「い、いや、べつに!」 はっとしてすぐにいつもの香椎に戻ったけど…なんだったんだろう。 「…チャラチャラしてた折原の発言とは思えないなーって思っただけ。」 「…確かに。俺、進歩したよな。」 「自分でいうなよ。」 いつもどおりのやり取りをしながら家まで帰って、ご飯を食べてまったりする。 「…あ!」 テレビを見ていると香椎の声が後ろからした。 「…どうかした?」 振り向くとカレンダーを見ている。 「…あーいや、折原来週病院だったよな? 今週末でとりあえずマンション帰るわ。」 あぁ、そうか。 分かっていたことだけど、帰したくないという思いが強くなる。 「そう、だな。」 「い、一応言っとくけど、だぶん発情期入るから。それで…。」 もうそんな時期か。 でもそれなら尚更 「…また、抑制剤の量増やして凌ぐつもり?」 前に見た顔色の悪さを思い出す。 確かに風邪の影響もあったのかもしれないけれど、かなり辛そうだったし。 「公共の場で発情するのは迷惑になるだろ。…心配すんな。今回は発情期間は仕事持ち帰って出来ることは家でする予定だから薬の量は増やさない予定だし。」 その言葉を聞いて少し安心した。 だけど・・・その間香椎に会えないと思うと素直にさみしいという気持ちになる。
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