第九章

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「…あ、連絡きてる。」 今日仕事を早めに上がって病院に言っていた折原から完治した、と簡潔に連絡が来ていた。 「…顔、緩んでるよ?嬉しそうだなぁ、うらやましい。」 水瀬さんが俺を覗き込んで言う。 あんな事はあったけど上司と部下でいい関係で続いている。 「か、からかわないでくださいよ。」 「いいじゃん。楽しいし…あ!香椎明日から少しの間来ないんだよね?」 「そうです。何か出来るものがあれば一緒に持ち帰りますけど。」 そう言うと後ろから 「香椎、じゃ、コレ頼んでいい?入力終わったら折原に渡してくれればいいから。折原入院中のやつ。」 「了解。」 土生から資料を受け取り中身をチェックする。 水瀬さんは楽しそうに土生にも話を振る。 「…そういや土生知ってるんでしょ?俺のことも折原のことも。」 「まぁ…一応。俺は香椎が決めたことなら応援します。でも…香椎、気を付けて。」 「ん?何が?」 気を付ける意味が分からず訊ねると、 水瀬さんと顔を見合わせた土生が 「ーなんか香椎、抱き潰されそう…。さすがに無理はさせないと思うけど。」 いいにくそうに言う。 折原が優しいのは最近なんとなく分かってきた。 俺の気持ちとか考えとかを知ろうとしてくれたり、俺を安心させるために、自分がどう考えているか言ってくれるようになった。 …今回だって、本当は発情期は自宅でやり過ごすつもりだったけれど、折原と話をして、折原の家で過ごすことになったわけで…。 勿論そういう事もする、とは思う。 一緒に生活している時も我慢していると言っていたし。 「ま、香椎泣かせるようなことしたら俺が貰っちゃうけど。」 「あれ、水瀬さん、まだあきらめてなかったんですか?」 「…土生くーん、上司に対してそれは失礼だろー。」 「あーすいません、つい思ってる事が口から出ちゃいました。」 なんだかんだで心配してくれるんだよな。 いい関係でこうやって一緒に仕事出来るのがうれしい。 「…大丈夫ですよ。俺だって男なんでいざという時は実力行使します。 それに……今のアイツは、前とは変わってるし…大丈夫ですよ。」 そう言った俺の顔を見た二人は安心したように笑った。 俺って恵まれてるなって実感する。 自分がΩであることを知られるのは嫌だったし、負い目に感じていたけれど、俺が頑張ってきたことを認めてくれる仲間がいて、好きだといってくれる奴がいる。 俺は折原みたいに気持ちをストレートに言葉にするのには勇気がいる…。 けど、ちゃんと口にしないと伝わらないよな。
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