第一章

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こいつとはこのくらいの距離感の方がいい。 「あー…なんか、少し熱っぽいな。」 出社してデスクに座ると少しだるいような感じがする。薬はいつもどうり飲んでいるし。風邪だろうか。風邪薬も飲んでおこう。 念のため今日は仕事が終わったら早めに帰ろう。 「あれ、なんか顔少し赤いけど、大丈夫?」 土生が少し心配そうに俺を見る。 「たぶん風邪だよ。今んとこ熱なさそうだし平気。」 今日は折原も水瀬さんも外回りに行っているからデスクが静かだ。 なんとか本日分の仕事を終えた俺は、土生と一緒に帰ることにした。 外回りは直帰だろう。電気を消して少し暗くなり始めている外に向かってエントランスを歩いた。 「おい、」 そこにちょうど戻ってきたであろう折原の姿。 「これ、今日新規で契約とれたやつ。明日そこで少しプレゼンするからこの契約で来年度、再来年度のデータ出せたら出してほしいんだけど。」 …資料を受け取り中を確認する。 確かに、これは明日までに入力してデータ内容確認しないといけない。 「…今から?帰れなくなるんじゃない?大丈夫?」 土生が心配そうに見る。 「それに香椎、体調」 「分かった。すぐ取り掛かる。」 大丈夫だ、という合図を土生に送り、自分のデスクまで戻る。 この量だと2時間弱ってとこか…。 PC起動して入力していると、折原も隣に座った。 「…え?」 「明日のプレゼンの資料だよ。」 それも自分がしないといけないと思っていたから、少し驚いた。 無言で静かな室内に、キーボードを叩く音だけが響く。 あー、なんかだんだん頭が重たくなってきた。 でももう少しで終わりそうだ…。まだ終電もあるし終わったら帰って早めにねよう。 「……なんかいい匂いしねぇ?」 くんくんと宙を嗅ぐようなしぐさをしている。 「いや、別に何も…。腹減ってるからじゃねぇ?」 さすがに少し疲れてきて、喧嘩をする気力はお互いない。 「ちょっと自販機行ってくる。」 そういって折原は席を立った。 「はぁ、ダル…。」 どんどん体の熱は上がっていっているように感じる。 風邪薬飲んだのにな……あれ?そういえば…。 俺前の発情期っていつだったっけ? 薬で抑制できているからそこまで細かく気にはしていなかったけど…。 急いでスマホのスケジュールで確認する。 もしそうなら一刻も早く帰らないといけない。 いままでと違いαの近くにいることが増えて、発情期の症状が出やすくなっているのか? それとも薬が効きにくくなってきている?
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