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百億本の花
「キレイ……」
少女は目の前の壮大な景色を見て思わず口にした。
少女は小高い丘に立っており、その眼前には、どこまで続いてるか分からない色とりどりの花が咲いていた。
春のような暖かな日差し、時折吹く穏やかな風が花を揺らす。
「お嬢ちゃん、ここにある花好きなだけ持って行っていいんだよ」
少女の横に立っていた大柄の男性は、膝をつき目線を少女まで落とすと、微笑んで言った。
「ううん、いらないよ!」少女は歯を見せるように純粋な笑顔を浮かべた。
「花を持って行かなくても、切り取らなくても、この景色を見れただけで十分!」
「最後にこんなキレイな景色見れて良かった」
少女は景色を見ながら腕にある痛々しいアザにそっと触れる。
「どんなに嫌なことがあっても、こんなに世界は美しいんだね」
どこからか突風が吹き、少女の髪と花びらを巻き上げる。
「私、ここに来れて良かった、おじさんありがとう」
少女は笑顔で言うと、ゆっくりと消えていき、花びらと一緒に空に上がっていった。
「叶うなら来世では、彼女が幸せに……」
男はそう呟きながら、巻き上がった花びらを見送った。
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