旅は道連れ、世は情け-「君を待ち、月を読む」より-

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旅は道連れ、世は情け-「君を待ち、月を読む」より-

 その人物はヒナと呼ばれ、文字通り、小さき者だった。 「やーい! ちびー!」 「か、返せ!」 「ふん! ちびにはこれでさえ届かないもんな!」  ヒナより大きくがたいの良い子供たちは、いつもヒナの持ち物を奪っては高くかざし、これみよがしに馬鹿にしていた。 「返せ! それは、俺の大事な物なんだ!」 「このぼろっちい物がかあ?」  子供たちは、そのぼろっちい何かをわざとらしく広げて見せた。 「きったねえな! それに、よっと!」 「あ!」  ヒナの大事な物は、目の前で引きちぎられて、無惨にもばらばらに散ってしまった。 「あーあ。つまんねえな。帰ろうぜー」  子供たちは己の自己顕示欲を満たし、そそくさと帰って行った。 「……くそっ……ぅ……!」  泣き虫にはなりたくない。ヒナは、子供ながらにも歯を食い縛り、ばらばらに散ってしまった大事な物の破片を集めていた。すると、ヒナの前に暗い陰が出来たので見上げてみると、そこには大きな子供がヒナの顔を覗き込んでいた。 「お前って」 「だ、誰だよ!」 「本当にちっこいなあ!」  満面の笑みでそう言った少年は、オオクニだと名乗った。ヒナは不満ながらも、名乗り出た相手に失礼だと思い、自らも名乗った。
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