不幸日和

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不幸日和

 言うなれば彼女は、窓辺の花瓶。  花そのものでもあるのだろう。彼女は成績優秀、眉目秀麗、スポーツ万能。何かひとつの行動が教室中の、ひいては学校中の視線を集めるのではないかというほどに。玉に瑕といえば、あまり口が達者ではないというくらいだろう。彼女は校内で誰かと親しげに話すことなどない。  高橋華世。「はなよ」と呼ぶ人間は少なく、愛称はカヨだ。けれどその愛称も気安く呼ぶ存在は少ないため、校内で耳にすることは殆どない。何故そんな愛称を俺ごときが知っているかというと、休日にたまたま見かけた彼女が、親しげに並んで歩いていた男に呼ばれているのを聞いたからだった。どちらかと言えばクラスメイトたちは陰からこっそりと「窓辺の花瓶が、」などと暗喩に使うほうが聞き馴染みがある。  陰口ともとれる花瓶なんて形容の仕方には明確な理由があった。確かに綺麗なのだ。例えば、豪邸に踏み入れた途端目にはいる花。目一杯咲き乱れて、今にも花が落ちそうなそれ――――をひっそりと生かす花瓶。豪邸に存在するのだからさぞ高級なのだろうと予想は出来ても、実際その値打ちは知る人ぞ知るのみで、一般人から見れば別のものでもいいのではないかと思ってしまうような。それである必要性が万人に共通ではないという点において、彼女は豪邸の花瓶と殆ど変わらない。成績優秀、眉目秀麗、スポーツ万能、けれど彼女の性格であったりとか、生活様式であったりとか、そういうのは全くの未知。どこか別世界のもののようなのだ、彼女は。  まるで漫画だよ、と嘲笑にも近い笑い方をしたクラスメイトに賛同せざるを得ない。変哲のない公立高校に通う時点で生まれからしてお嬢様というわけでもないだろうけれど、世間話を楽しむこともなく、窓際の席で静かにじっとしている。最低限のやり取り以上はなく、気がつけばそこにいるけれど、存在する以外のことを認識されていない。     
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