第三回 俺神様なんやけど、まあええか。

2/2
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
先から続けていた高笑いと生唾を一緒に呑み込んでしまい、彼女になんとか事情を話して弁解しようと考えました。 が、逆立ちで熟々林檎のようになった顔面と血の溜まった脳みそでは、まともな返しも浮かばず、言葉にならないアワアワな無様を彼女へお見せするだけになってしまいました。 『落ちるとこまで落ち切った人間』の哀れな様を見た彼女の心情を、私が知る術はありませんが、それでも、彼女はうるんだ瞳を擦りつつも「なにしてんだよ」、とツッコんでくれましたのでなんとか感情を読み取れました。 きっと奇天烈行動を見た時の衝撃(インパクト)で、50ヤードの『心配』や、100ヤードの『悲しみ』などの感情は一瞬で越えて行き、200ヤード辺り『蔑み』のグリーンど真ん中へ着地したのでしょう。 しかし柔軟性弾力性に優れた彼女の感情は、更にそこからゴム鞠のようにバウンドを繰り返して飛距離を更に遠く遠くへ伸ばしまして、最終的には、彼女にとって未知の領域である『呆れ』という池にはまりこんでしまい、ただ呆然とするしかなかったのでしょう。 ツッコミを入れてくれたお陰で、私は脳みそで考えることなく「人助けや」と、ただの真実を返答できました。 が、私の返答をボケだと誤解釈した彼女は「お前は神様かよ」と再びツッコんできたのですが、同時に蹴りまで飛ばしてきたので、私は「せや」と更に真実を言葉にする前でトドメを刺されてしまい、派手に吹き飛んだ。 フローリングに右肩から落下しても止まらぬ私の勢いは、そのまま部屋の隅まで転がっていく更なる無様になってしまったのだが、彼女はその(ざま)を見て今度は「ぎゃは」と噴き出し、笑い声が部屋に響き渡ったので、神様は「俺神様なんやけど、まあええか」て思ったとさ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!