・2060年2月2日(月) 佐海蒼介

3/11
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
「大丈夫だよ。早々ないって! そんなこと」 誰かの言葉に、誰かが薬を塗る。よくある会話、よくある光景だ。 平均寿命という言葉がなくなった、この時代。 人々が不慮の交通事故のように、ある日突然、天寿を全うするようになってから……もう十年以上経つ。 〝突然死ショック〟なんて名前で日本史の教科書には載っているが、そんな安直な名称で表現できるような事件ではなかった。 「そうだよね! 滅多にない確率だし……未来命日までの健康は、みんなに約束されてるもの。平々凡々、幸せに生きれる、よね」 遺伝子工学や薬物開発の目覚ましい進歩は、ありとあらゆる病気への耐性を作り出した。 世界一健康な国・日本。海外からも注目され、どの国も日本の研究や療法を真似しようとした。〝病気〟という言葉は、俺たちの生きる時代では、死語になっていったのだ。 治せないだけでなく、そもそも、発症させない。 精神病以外に、日本国民はならない……しかし、そんな社会を実現できたのは、ほんの十数年間だけだった。 開発にあたっての遺伝子や薬物の実験を、幾度も、幅広い人間に行ってしまったことが失敗だった。 遺伝子に、多様性が出てしまったのだ。 こいつが、この国を狂わせた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!