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「大丈夫だよ。早々ないって! そんなこと」
誰かの言葉に、誰かが薬を塗る。よくある会話、よくある光景だ。
平均寿命という言葉がなくなった、この時代。
人々が不慮の交通事故のように、ある日突然、天寿を全うするようになってから……もう十年以上経つ。
〝突然死ショック〟なんて名前で日本史の教科書には載っているが、そんな安直な名称で表現できるような事件ではなかった。
「そうだよね! 滅多にない確率だし……未来命日までの健康は、みんなに約束されてるもの。平々凡々、幸せに生きれる、よね」
遺伝子工学や薬物開発の目覚ましい進歩は、ありとあらゆる病気への耐性を作り出した。
世界一健康な国・日本。海外からも注目され、どの国も日本の研究や療法を真似しようとした。〝病気〟という言葉は、俺たちの生きる時代では、死語になっていったのだ。
治せないだけでなく、そもそも、発症させない。
精神病以外に、日本国民はならない……しかし、そんな社会を実現できたのは、ほんの十数年間だけだった。
開発にあたっての遺伝子や薬物の実験を、幾度も、幅広い人間に行ってしまったことが失敗だった。
遺伝子に、多様性が出てしまったのだ。
こいつが、この国を狂わせた。
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