・2060年3月18日(木) 佐海蒼介

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・2060年3月18日(木) 佐海蒼介

・2060年3月18日(木)  明後日から春休み。コートを着ない日が、ぽつりぽつりとできるようになった。  今日も冬が脱げて春に変わる時に漂う、あのぬるい草の香りに包まれながら登校。  期末テストの結果が返却される日だった。点数よりも、教師たちの個性が出る採点の仕方に目がいってしまう。 最近では採点の機械に全てを丸投げしている教師も少なくないが、俺の通う三角畑高校(さんかくばたこうこう)は直筆採点の方針がまだ強いようだ。田舎の県立高校なだけあり、旧い体質なのだ。  肝心の結果はというと、赤点の科目もなく、むしろ学年の中でも上位。久しぶりに嬉しくなる。 しかし、放課後……奥田に職員室に呼び出された俺は、先日出したとある白紙のシートを突きつけられ、褒められるどころか怒られた。 「佐海……テストはあんなにびっしり回答を書いておきながら……進路希望シートが白紙って……お前な」 未来までの時間が明確に見えるようになってからは、小学生の頃から俺たちは進路希望のシートを期末テストのたびに書かせられる。 限られた時間を、いかに計画的に使うかを考えさせられるのだ。 進路先が、見えないわけではない。 未来命日に合わせて、残り何年の寿命があるあなたは、この学校や職業が向いてますだとか。人生のシミュレーションを試算してくれるシステムもある。 この前も、未来命日のデータと、これまでの成績……あとは回答した心理や思考のアンケートを取り込んで、試算してもらったばかりだ。 機械に紡ぎ出された人生を、グループになって、それぞれ発表して、自分にこんな進路が合うなんて、意外でした! だとか、本当に、色んな意味で中身のない会話を繰り返して。 みんな、そのシミュレーションで出た学校や職業を、つらつら、書いて。
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