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・2060年8月23日(月) 佐海蒼介
・2060年8月23日(月) 佐海蒼介
蝉の声がもう聞こえなくなった頃だった。彼女との再会は。
午前の練習が終わった昼下がり。ほかほかの汗をおさめようと、校庭の水道の蛇口を全開にひねった。溢れ出る水を頭から浴びてると、黒い一つの影が俺の足元に差し込んでくるのが見えた。
「佐海、木曜日はオフ?」
名乗りもしないし、前置きもない。むしろこんなに粗雑に話しかけてくる女は一人しかいなくて、振り向かなくても、誰だかすぐにわかる。
「……花絵?」
「あ、ごめん。そうだよ」
「木曜日はオフだけど……どうした」
俺は野球部に入っていて、この頃は、丸刈りの灰色頭の坊主だった。
俺と花絵はいつも同じグラウンドで部活動をしていて、クラスも一緒だったから、自然と仲良くなったわけだ。だが、俺たちの間には浮いた話など一度もなかった。それには、大きな理由が一つある。
「行ってほしいところがあるんだ、一緒に」
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