episodeー莉緒

2/3
前へ
/9ページ
次へ
 再び彼女を見かけたのは、出版社主催のパーティーだった。控え室に入ろうかとドアノブに手を掛けた時、中から声がして入室を止めた。  出版社の者が出入りをしたのを確認し、控え室の扉を開けると彼女は一人きり泣いていた。俺の姿に驚き、慌てて涙を拭う。  愛らしく頬を染めていた彼女に、何があったというのだろう。彼女の瞳が強く印象に残った。  数日後、執筆仲間のサイン会が行われ、その様子を耳にする機会があった。作家が出版社の担当である草加氏と交際中だという。  彼には書店の彼女がいたはずだ。疑問を感じ、草加氏に尋ねると、彼から苛立つ答えが戻ってきた。 「俺の責任なんです」 女性作家とはけして付き合ってはいないと、彼は一言だけ言い顔を背けた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

197人が本棚に入れています
本棚に追加