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「ほんとあの子が来てから楽しそうだよねえ、乃音湖さんは」
どこをどう捉えると、その判断に至るのだ。まじまじと彼奴を見つめてしまう。本意が読めぬ細長き瞳。胡散臭さと優雅さが溶けあう様は、没落した貴公子を思わせる。
「あははははー。わかりやすく、そんな怖い顔しないでほしいなあ。まったく、まったく、素直な黒猫さんだねえ。冗談だって、半分はね」
捉えどころのない態度で、新聞をかさかさ揺らす。何事もなかったように鼻歌を交えだす。
まったくもって、やれやれである。あの乙女が現れてから、本来、温厚で知性あふれていた彼奴までこんな調子になってしまった。なんと罪深いことをしでかしてくれたものか。
にゃあ、とため息が零れた。前足を投げ出して背伸びをする。
だが、彼奴自身にまるで責任がないわけではない。乙女を吾輩に引き合わせたのは彼奴だ。それ故、この有様はあのような乙女とそもそも知り合った彼奴の自業自得ともいえる。これぞまさしく、様を見ろである。深々と頭を下げて、反省すれば良いのだ。不審で不遜な乙女などと出逢ってしまった自らの不用意さと不徳がこのような事態を招いたのだ、と。
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