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「何でしょうか、ナツメのおじさま」
「暑くない?」
「何のこれしきっ、美少女であるためならわたしは暑さになんて」
「暑くない?」
「平安の世の女性たちは十二単でいつもぐるぐる巻きだったんです」
「汗だくだよ」
「ふふふ、これはあれです。努力の結晶です」
「液体だよ」
「……あづい。やっぱだめ、たおれる」
頑固か、こやつは。いや、阿呆か。
「あーあー、ほら言わんこっちゃないよ」
ゆらりと崩れ落ちる洋装乙女の腰を和装貴公子が受け止め、そうっと川原に座らせる。乙女は頬を染めながら靴を脱ぎ、朧げに服を弛めて寝転がる。儚く艶美で、絵になる光景だ。が、まるで中身が伴っていない。現実はゆでだこ乙女と家無し男である。
にゃあ、とため息をつくと、はあ、と応えがあった。
「参ったねえ。こんな格好で寝ちゃったよ。実に犯罪的だ」
にたにたと顎をさすりだす。
「視線が痛いよ、黒猫さん。ああ、噛まれるのは物理的に痛くなるから落ち着いて。いかがわしいことなんて何もしないから。生まれてこのかた、そろそろ七年の付き合いだろう?」
だからどうしたというのだ。こんなときにまでのらりくらりとされては噛みたくもなる。とはいえ、この男がそうしていられる程度の症状ではあるのだろう。
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