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知的黒猫《インテリくろねこ》と美的乙女《ゴスロリおとめ》
◆其の壱 知性は橋の下に集うのです◆
吾輩は黒猫である。橋の下の民である。この鉄橋に名はまだない。聞くところによると、最寄りの駅舎を往き来する電鉄が用いるだけだからとか。確か、秤木という駅舎だ。
「お、そろそろかな」
ナツメがいつものように上向きに呟いた。
直後、ごごごごご、と轟音が尾を通って吾輩の頭蓋に反響する。はかり川もわずかに揺らいだ。その水面には、吾輩の凛々しさを体現するつんと尖る双耳が映り込んでいる。聡明さを隠せぬ、蒼玉の如き双眼から視線を切った。川原の石に引っかかっていた紅葉が一枚、翻って流されていく。
「今日も今日とて時刻通り。マメだよねえ。敬服、敬服」
石に尻を埋めたまま、彼奴はどこよりか拾いきた経済新聞を持ち上げた。澄まし顔に戻って再び優雅に読み耽る。それなりの齢であろうに、この七年、姿はまるで変わらない。狐然とした顔立ち、四方八方に散らかる髪の無造作加減、深緑と茄子紺のくたびれた作務衣その他もろもろ、何から何までである。物心ついてからは化け狐か何かかとしばしば疑ったものだった。
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