たゆたう

自治会長の山田さんの話

いよいよ今日だ。俺の隣の家に若い男の子が引っ越してくる。
「あら。今日なのね」
隣のぼろ家に荷物が運び込まれていくのを見ていると、噂大好き蒲田さんがやってきた。昔は、ミス桜と呼ばれていた彼女も今は還暦のおばさんだ。
「そのうち挨拶に来るだろう」
女というのはミーハーな生き物だなあと思う。俺も自治会員として、若い男が一人増えるっていう話しか聞いていない。情報源は役所の自治会担当の部署だ。
「独身？」
蒲田さんの隣には同級生の佐野さんが立っていた。こちらも還暦だが、化粧で塗り固めているせいか少し若ぶりに見える。
「ああ。独身らしいぞ」
若い男が何を好き好んでこんな限界集落に引っ越してくるのか。俺にはさっぱりわからない。
「イケメンかしら？」
「優しいといいわね」
このおばさん2人は好き勝手言っているが、果たしてどうだろう。