全編

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 そんなことをしていると、なかなかどうして僕の懐事情も苦しくなってくる、というか実際苦しい。高給取りとはお世辞にも言えない状況であるので、彼女の存在は若干負担になりつつあった。少なくとも、街コンで手に入れた彼女に対して資金的に投入し過ぎなのは、火を見るより明らかだ。バジリスク絆やCR浜崎あゆみじゃあないんだから。投入したお金は画面上演出よろしく彼女の笑顔になって帰ってくる。笑顔でメシは食えない。  そんなこんなで、大して思い入れもない彼女との関係を清算しようとしていた矢先に朝からお電話がかかってきた。 「今日は何の日か知ってる?」  知らねーよ、という言葉をぐっと飲みこむ。彼女はメンヘラ。こういうテンプレートな表現は使いたくないのだが、典型的なメンヘラ。辞書に乗せたいメンヘラ。もしWikipediaの編集権限があったらなら、迷わず彼女の写真を掲載したい。  だから、この返答は言葉を選ぶ必要があった。付き合って三ヶ月と少し、職場の内線越しに彼女の声を聴いたのは一度や二度ではない。そのたびに「電話はスリー・コールで受けろ」と指導した新人の僕に対する敬意が目減りしているのを肌で感じている。  「今日は何の日、ふっふー」と右肩上がりで答える。思いッきりテレビよろしく、というより再現率100%(自称)でふざける。  時間を稼ぐ必要があった。人生には絶対に間違えられない瞬間というものがある。     
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